NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

医学

撤回された論文は根拠にならない

2023年8月からX(旧Twitter)にて、元杏林大学保健学部准教授の平岡厚さんと対話を続けています。HPVワクチンは安全で効果的というのが世界中の専門家のコンセンサスですが、平岡さんはHPVワクチンの深刻な副反応・薬害が相当規模で存在すると主張しています…

エナジードリンクの過量摂取で脳は溶けるか?

「エナジードリンクを飲み過ぎると脳が溶けると聞いたことがあるが本当か?」というご質問をいただきました。いい質問だと思います。エナジードリンクは、カフェインやビタミンなどが入った清涼飲料水です。一般に市販されているものですから通常の使用量で…

「線虫がん検査」の感度・特異度は過大評価されている

上部消化管内視鏡やCT検査など、がんの検査には一定の苦痛やリスクを伴うものが多いです。もし、微量の血液や尿でがん検査ができれば素晴らしいことです。すでに商業化されている検査法の一つに尿1滴で15種類のがんリスクがわかると称されているがん線虫検査…

WHOのがん統計グラフデータベースの使い方解説

WHOのがん統計のグラフデータベースがリニューアルされました。これを機会に使い方を解説します。「がん死亡数が増え続けているのは先進国では日本だけ」なんてデマを検証できますし、他国を含めてさまざまながんの統計を知るのは楽しいものです。リニューア…

「血圧200を放っておいたが問題なかった」などと放言する医者を信じてはいけない!

プレジデント2022.10.14号で「信じてはいけない!健康診断、医者、クスリ 最新版・コロナ対応 病院に頼らない生き方」という特集が組まれ、養老孟司氏と和田秀樹氏の対談が掲載されました。その対談から和田氏の発言部分を引用したツイートが6000件以上のリ…

興和のイベルメクチン臨床試験は失敗ではない

イベルメクチンはもともとは寄生虫に対する薬だったが、試験管内で抗ウイルス効果が確認され、新型コロナに効果があると期待する医療者もいた。興和株式会社が新型コロナウイルス感染症に対するイベルメクチンの第3相試験を行っていたが、このたび、主要評…

乳がん検診と子宮頸がん検診が毎年ではなく2年に1回なのはなぜか?

子宮頸がん検診と乳がん検診が2年に1回の隔年であり、毎年がダメな理由は、検診による害が大きくなるわりには得られる利益が小さいと考えられているから。見かけ上の機会平等を名目に、不適切な検診間隔のがん検診を行政が提供すると不利益を被る人が出る。

抗がん剤を否定する自称医師のツイートへの注意喚起

抗がん剤治療は臨床的に効果が確認された標準治療である ある自称医師が術後補助化学療法(がん組織を外科的に切除した後の抗がん剤治療)を否定するツイートしており、現時点でリツイートは1600件を超え、いいねも7000件を超えています*1。ですが、かの自称…

「がん死亡数が増え続けているのは先進国では日本だけ」は誤り

がんに関する不正確な情報の一つに「がん死亡数が増え続けているのは先進国では日本だけ」「がん死亡数は欧米では減っているが日本だけ増加し続けている」というものがある。「抗がん剤は害しかない」「がん検診は無駄だ」「残留農薬や添加物が多い食事が原…

過剰診断と過剰検査の違いも認識しよう

■「過剰診断」の定義の違いを認識しようにおいて、内分泌外会誌に掲載された■『過剰診断(overdiagnosis)の定義と過剰手術(oversurgery)/過剰治療(overtreatment)の用法:病理医と疫学者の見解の差異』という文献(以下「本文献」)を紹介しました。「…

「過剰診断」の定義の違いを認識しよう

同じ用語が分野によって異なる意味で使われることがあります。たとえば「過剰診断」という用語がそうです。■「過剰診断」とは何かという記事で、過剰診断を「治療しなくても症状を起こしたり、死亡の原因になったりしない病気を診断すること」という定義を私…

解説:台湾女性における低線量CTによる肺がん検診と肺がんの過剰診断

高リスク者(現喫煙者・過去喫煙者)を対象とした低線量CTによる肺がん検診が、肺がん死亡率を下げるという複数のランダム化比較試験があります。高リスク者に限り、低線量CT肺がん検診が推奨されている国もあります。では低リスク者(非喫煙者)には?私の…

新型コロナデマ検証本と薬局栄養指導本を書きました

機会があってこのたび、共著ではありますが、本を2冊書かせていただきましたのでご紹介します。 新型コロナとワクチンの「本当のこと」がわかる本~【検証】新型コロナ デマ・陰謀論 発売日は2021年12月28日です。複数のメンバーの共著で、私が執筆したのは…

新型コロナに対するイベルメクチンのケースシリーズを発表してほしい

イベルメクチンに対する「熱狂」 一部の界隈で新型コロナウイルス感染症に対する抗寄生虫薬「イベルメクチン」への期待が高まっている。熱狂的であるとすら言える。「海外ではイベルメクチンが大きな成果を上げているのに日本で使用が制限されているのはけし…

ワクチン接種割合からワクチンの効果を評価するときに気をつけること

新型コロナによる重症者や死亡者中に占めるワクチン接種者の割合についての報道が増えてきた。たとえば、 ■その数字がワクチン接種を促すか──6月に死亡した米コロナ患者の「ワクチン未接種率」が明らかに(クーリエ・ジャポン) - Yahoo!ニュース という記事…

ゼロにはできなくても

新型コロナウイルス感染症に対するmRNAワクチンはかなり有効ではあるが、もちろん有効率は100%ではなく、ワクチンを2回接種しても感染、発症することはある。また、ワクチンが効きにくい変異株が出現する恐れやワクチンが有効な期間に不確実な部分はあり、…

イソジンうがいで新型コロナの重症化予防という話はどうなったか追いかけてみた

2020年8月の会見「うそみたいな本当の話」 新型コロナウイルス感染症の第四波の真っ最中で、とくに大阪府は厳しい状況だ。大阪と言えば、昨年2020年8月に大阪府吉村洋文知事が会見で「うそみたいな本当の話をさせていただきたい。ポビドンヨードを使ったうが…

「低気圧の体調不良には五苓散が効く」のか?

「低気圧の体調不良」は存在する。「低気圧の体調不良には五苓散が効くという研究」はあるが質は高くない。とは言え、実地臨床では五苓散のような漢方薬は有用。

「論座」の新型コロナ感染症の記事から学べること

「論座」に新型コロナウイルス感染症を疑う症状を経験したジャーナリスト、佐藤章氏による記事が掲載された。患者さんの視点で気持ちの推移やPCR検査の経験を伝える良い記事である。 ■私はこうしてコロナの抗体を獲得した《前編》保健所は私に言った。「いく…

もし家族が肺炎になったら新型コロナの検査を要求するか?

COVID-19(いわゆる新型コロナウイルス感染症)症例が福岡でも出ました。私の外来にも「新型コロナが心配」という患者さんがぼつぼつ受診しています。幸い、私の外来ではいまのところはどなたも肺炎にはなっておらず、現時点では検査は不要だとご説明し、ご…

リキッドバイオプシーの商業化の問題点

『「血液一滴」あるいは「尿一滴」で、がんを早期発見!』という話は以前からたくさんあるが、なかなか実用化されない。こうした、少量の体液からがんを診断する技術を「リキッドバイオプシー」と呼ぶ。現時点では、一定の精度でがんを診断できるリキッドバ…

HPVワクチンの定期接種は人体実験だったのか?

厚生労働省のリーフレット(平成25年6月版)には「子宮頸がん予防ワクチンは新しいワクチンのため、子宮頸がんそのものを予防する効果は証明されていません」*1との記載があった。子宮頸がんのほとんどはHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因で起こる…

「謎水装置」から学ぶニセ医学の手口

「謎水装置」は血中酸化ストレスを減少させると主張されている 「株式会社日本システム企画」が製造販売する、配管内の赤錆を黒錆に変えて赤水を解消する効果があると称する「NMRパイプテクター」という商品がある。福岡市営地下鉄に広告が出ているのを見た…

検診で乳がんが発見された人が100人いたとして

問題。 検診で乳がんが発見された人が100人いたとします。この100人の中で、がん検診のおかげで乳がんで死なずに済んだ人は、何人ぐらいでしょうか? がん検診を行えば何かしら治療を要するがんが見つかる。しかし、がんを発見できること自体は、がん検診が…

「花粉を水に変えるマスク」の臨床試験の結果は早く公表されるべき

一年前に話題になった「花粉を水に変えるマスク」 「花粉を水に変えるマスク」ってありますよね。1年前(2018年春)に活発な議論がなされました。インターネット上では山形大学理学部物質生命化学科天羽研究室の以下のページがまとまっています。 ■花粉を水…

軽症であればインフルエンザが心配だからと病院に行くのはおすすめしない

インフルエンザは自然に治る疾患で、抗インフルエンザ薬の効果は有症状期間を1日間ほど縮める効果である。感染リスクや待ち時間コストを考慮すると、症状が軽いのにインフルエンザが心配だからと病院を受診するのは割にあわないかもしれない。

紛らわしい「ニセ医学」~免疫療法と幹細胞療法

2018年の医学関連ニュースといえば、なんといっても本庶佑先生のノーベル賞受賞であろう。がん細胞が免疫から逃れる仕組みを明らかにした。また、免疫チェックポイント阻害剤としてすでに臨床応用もされている。一番名前が知られているのは「オプジーボ」(…

新装版『「ニセ医学」に騙されないために』、発売です。

以前から告知を行っていましたが、新装版『「ニセ医学」に騙されないために』が本日(11月29日)発売になりました。新装版についても、サイエンス・ライターの片瀬久美子さんが解説文を書いてくださいました。片瀬さんと出版社のご厚意によりウェブ上でも読…

はてなブログに移行しました。そして新装版『「ニセ医学」に騙されないために』が出ます!

はてなブログに移行しました。そして新装版『「ニセ医学」に騙されないために』が出ます!著者名はNATROM改め名取宏(なとり・ひろむ)です。

「生存率の上昇」と「死亡率の低下」は違います

■医師国家試験を解いてみよう。「がん検診の有効性を示す根拠はどれ?にて、『Wikipediaの「がん検診」にはbが正解であると書いてあるが…』とのブックマークコメントをenvsさんからいただきました。こうして疑問点について教えていただけることをたいへんに…