NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

科学

ABO式血液型の遺伝様式をめぐる2つの仮説

オーストリアのカール・ラントシュタイナーによってABO式血液型が発見され、輸血医学の基礎が築かれたことは有名だ。1930年にラントシュタイナーはノーベル医学・生理学賞を受賞した。輸血の歴史については■「血液は生理食塩水で代用できるから輸血は必要ない…

書評『「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論』

「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論 (単行本) 献本御礼。タイトルの通り、色覚についての自然科学、および、「色覚異常」*1と社会との関わりについて書かれた本だ。サイエンスの部分(第2部)も興味深いが*2、その部分の書評は他の方に…

『生態学と化学物質とリスク評価』

■生態学と化学物質とリスク評価 (共立スマートセレクション) 加茂 将史 (著) 生態学と生態リスク評価はだいぶ違うものらしい。本書は基本的にはリスク評価、とくに生態リスク評価の方法の解説であるが、ちょいちょい挟まれる著者の経験が興味深い。著者の加…

食の安全や健康情報の「うんちく話」

■効かない健康食品 危ない自然・天然 (光文社新書) 松永 和紀 (著) 松永和紀さんの新刊。ちなみに和紀は「かずのり」ではなく「わき」と読む。本書のプロフィールによれば、毎日新聞社の記者として10年間働いた後に退職し、科学ジャーナリストとして活動を開…

「謎解き超科学」(書評)

.style1 { color: #000066; font-weight: bold } ■謎解き超科学 ASIOS (著)著者のASIOSは団体名(「Association for Skeptical Investigation of Supernatural」(超常現象の懐疑的調査のための会)である。実際には本書は複数の著者によって書かれている。…

血液型と性格の関係を否定するまずい論法について

血液型と性格には強い*1関連があるという主張がある。血液型性格判断あるいは血液型占いと呼ばれている*2。こうした主張には科学的根拠はない。詳しくは■遺伝学からみた血液型性格判断で論じた。ニセ科学を論じる上では「定番」となっている話題である。さて…

相変わらずの血液型の話題

最近、血液型と性格の関連についての話題をよく見る。たとえば「ヒトメボ」というサイトからエキサイトニュースに紹介された記事。 ■B型の祖先は遊牧民? 世界で共通する血液型と性格の関係(ヒトメボ) - エキサイトニュース 「血液型と性格の分析は日本が最…

iPS細胞から卵子と精子をつくって授精させたら「クローン」になるのか?

iPS細胞の応用について論じたダイヤモンド・オンラインの記事において、「クローン」についての誤解が見られた。 ■iPS細胞の発見は人類にとって「福音」となるのか?|シリコンバレーで考える 安藤茂彌|ダイヤモンド・オンライン iPS細胞を生殖機能に応用す…

「喫煙率が下がると肺がん死が増える」のはなぜか?

武田邦彦氏が、「どうも何かを間違っているような気がします」という保留付きながら、「タバコを吸わない人に対して、タバコを吸うと肺がんの死亡率は10倍以上減る」という推論をしていました。 ■武田邦彦 (中部大学): 奇っ怪な結果?? タバコを吸うと…

はたともこ氏(民主党)の主張を紹介してみる

理想的な立候補者や政党はなかなか無いので、選挙では「比較的まし」な選択肢を選ばざるを得ない。どの政党にもある程度は困った人はいるだろうが、ある民主党公認候補者が主な理由で、前回の比例代表選挙では私は民主党には投票しなかった。その候補者が、…

世界で一番美しい元素図鑑

■世界で一番美しい元素図鑑 セオドア・グレイ (著), 若林文高 (監修), ニック・マン (写真), 武井摩利 (翻訳) 元素コレクターによって書かれた本。元素コレクターというか、元素オタクと言っていい。この本は元素に対する愛にあふれている。著者のセオドア・…

オリザニンの日

12月13日は「ビタミンの日」である*1。いまからちょうど100年前の今日、1910年(明治43年)12月13日。東京化学会常会において、鈴木梅太郎は、米糠中に含まれる微量の未知物質について発表した。当時、既に、エイクマンの行った実験によって、白米のみで育て…

脳の中の「わたし」

■脳の中の「わたし」坂井克之著, 榎本俊二著。 脳研究者による本。「脳科学」は、一部の脳科学者のために、いささか怪しい分野であるように見えるが、この本は大丈夫だ(と私は判断した)。私は未読であるが、著者の坂井は、「脳トレ」や「ゲーム脳」などの…

食の安全と環境−「気分のエコ」にはだまされない

■食の安全と環境−「気分のエコ」にはだまされない(シリーズ 地球と人間の環境を考える11) 松永和紀の新刊。ちなみに、和紀は、「かずのり」ではなく、「わき」と読む。本書のサブタイトルは『「気分のエコ」にはだまされない』。「気分のエコ」については、…

口蹄疫ウイルスが清浄国にも遍在しているとしたら

■木村盛世医師と口蹄疫で触れたが、ツイッターやブログでの木村盛世氏の口蹄疫関連の発言について議論が起こっている。殺処分で封じ込めを狙う国の方針を批判する木村盛世氏の認識が、どこら辺に由来しているのかわかりつつある。木村盛世氏は、そもそも、清…

脚氣ハ果タシテヴィタミンB缺乏症ナルカ

脚気は心不全および末梢神経障害を来たす疾患で、明治から昭和にかけての日本では、年間に2万人以上が死亡する年もあった。現在は、脚気の原因はビタミンB1欠乏であることがわかっているが、当時の日本では、脚気の原因について激しい論争があった。ビタミン…

木村盛世医師と口蹄疫

厚生労働医系技官で医師でもある木村盛世氏の著作(厚労省と新型インフルエンザ)は読んだことがある。木村盛世氏の主張に賛同はできない部分もあるし、やや危ういところもあるように思われたけれども、それでも読む価値のある本であった。また、木村盛世氏…

アスベストの有害性は疑わなくていいの?

喫煙の有害性はもはや確立された事実と言っていいのだが、それでも喫煙の有害性に対して懐疑的な人がいる*1。喫煙の有害性は、主に疫学的手法で証明された。なので、タバコの害を疑う人は疫学的手法そのものに対して懐疑的なのかと思いきや、必ずしもそうで…

血液型の話をすることくらいはいいのか?

ある特定の対立遺伝子Aを持つ人は、将来、癌に罹る可能性が高いとしよう。ある人が遺伝子Aを持っているという理由だけで、就職を断られることがあってもよいだろうか?新入社員を採用する際に、遺伝子Aを持っているかどうかを調べることを義務付けている会社…

我々は迷信行動を行うハトになっていないか?

■体験談は証拠にならない〜浄霊による体験〜では、「浄霊」の後、熱が下がったという体験談を紹介した。「浄霊」に病気を治すという効果がないことに、おそらくは読者の大半は同意していただけると思う。しかし、「浄霊」には効果があると誤認してしまう人も…

ウイルスに寄生するウイルス〜D型肝炎ウイルス〜

一説によると、すべての生物種の5分の4は寄生者であるらしい*1。たとえばヒトとかネコとかゾウとか目につく大きな動物1種に対して、寄生する種は数多くいるだろう。複数の種に寄生する寄生種もいるだろうから、その辺をならして大雑把に宿主1種あたり寄…

インフル除けお守りから「許せない度」考察してみる

ニセ科学批判批判の典型例として「お守りは批判しなくていいのかよ」というものがある。これまた典型的な反論は「お守りを売る側は科学を自称してないだろ」である。ニセ科学は「科学を装っているが科学でないもの」と定義され、お守りは別に科学を装ってい…

丙午の年の死産率が高いのはやっぱり・・・?

前回の■なぜ丙午の年に乳児死亡率が高いのかでは、丙午の年の乳児死亡率の増加は見かけ上のもので、「よかった。殺された乳児はいなかったんだ」という結論であった。一方、乳児死亡率だけではなく死産率も、丙午の年に興味深い動きを示している。グラフにし…

なぜ丙午の年に乳児死亡率が高いのか

丙午(ひのえうま)の年に出生率が低下することはよく知られている。ウィキペディアの丙午の項によると、「この年に生まれた女性は気が強い」「一般庶民の間では、この年生まれの女性は気性が激しく、夫を尻に敷き、夫の命を縮める(男を食い殺す)とされ」…

シートベルトは死亡を防がない? ニセ科学を見抜く練習問題シリーズ

インフルエンザワクチンの効果に否定的な主張はよくあるが、これまでに見たことのないパターンのものを見つけた*1。要約すれば以下のようになる。引用元の桜子さんによれば、「[インフルエンザワクチンに]とても予防効果があると大きい声では言えません」と…

Akinatorに科学者を当てさせてみた

みなさまはAkinatorをご存知だろうか。日本語版ウィキペディアのAkinatorの項から引用するのが手っ取り早い。 Akinatorとは質問への5段階の回答例を元に(実在または架空の)人物・キャラクターを絞込み推測しながら特定するプログラムエンジンであり、デー…

眼鏡っ娘で物理に強くなる

鈴木みその「マンガ 物理に強くなる」(ブルーバックス 関口知彦・原作)がいい。何がいいって、特に眼鏡っ娘が。 運動方程式の凄さを力説するメガネっ娘。 この、実に楽しそうに運動方程式の解説をする女子高生が教師役。生徒役は、物理で赤点だと補習のため…

血液型と性格の関係についてぶっちゃけちゃった大学教授

はてなブックマーク経由。ベネッセの「チャレンジ3年生」に掲載された「クラシック音楽で食べ物がおいしくなる!?」という記事を批判していた大学教授が、同時に血液型性格診断に肯定的であったという話。まずは、ベネッセ批判を紹介。 ■トンデモ本(大学…

トーマスとヘンリーの恋の謎

びじうさんが、トーマスのおもちゃについての謎を提起されていた。 ■トーマスの玩具が地味に凄い件(びじうのログ) ご多分に漏れず、うちの息子もトーマスの玩具で遊ぶようになりました。しかし、1歳児が遊んでいるこの玩具が驚くべき機能を持っていて、悔…

ホタテパウダーで残留農薬除去実験

ニセ科学を見抜く練習問題シリーズ。円山花参道のサイト*1によると、ホタテパウダーとは、「北海道のホタテ貝殻粉末を使用した天然素材で、抗菌性や調湿性に優れ消臭効果も発揮するナチュラルペイント」であるそうだ。「シックハウス症候群・化学物質敏感症…