NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

相変わらずの血液型の話題

最近、血液型と性格の関連についての話題をよく見る。たとえば「ヒトメボ」というサイトからエキサイトニュースに紹介された記事。


■B型の祖先は遊牧民? 世界で共通する血液型と性格の関係(ヒトメボ) - エキサイトニュース


「血液型と性格の分析は日本が最も盛んで、海外ではそこまで主流ではありません。これは、日本ではA・B・O・ABの血液型分布が平均的で調査が容易だったからと考えられます。一方、最近の欧米諸国では、血液型と遺伝子研究などの体質的な因果関係を分析することが行われるようになりました」(血液型人間科学研究センター・市川千枝子さん)

(中略)

「これら地域による分布の偏りや、現在世界の遺伝子研究などで分かってきたことを考え合わせ、少しずつ事実をつかんでいます。これらのメカニズムは未だ研究進行中のため、あくまで仮説段階ですが、海外と日本の研究点で一致するのが下記の特徴です」(同)


以下、「O型:人類初期における狩猟、採取民族に代表される血液型」「潰瘍、コレラ、ペストなどの病気にかかりやすく、梅毒や結核などの感染症や他、全般的に病原菌に強い傾向」、「B型:遊牧生活に適応してきたとされています」「免疫学的には肺結核、インフルエンザ、梅毒などの感染症には弱く、コレラ、天然痘などにかかりにくいと言われています」などと続く。これらの主張は以前から藤田紘一郎や竹内久美子が言っていたことと似たり寄ったりである。というか違いを見いだせない。

ABO式血液型が感染症を含めていくつかの疾患と関連しているというのは事実である。しかしながら、ヒトメボで主張されているような関連の多くは、明確な根拠に乏しい。「海外と日本の研究点で一致する」というのはただのデマカセだと思う。原著論文を示してもらわない限り、私は信じない。

知識もアップデートされていない。2009年にABO式血液型と膵臓癌の関係についての論文がトップジャーナルに発表された*1。しかし、「ヒトメボ」の記事には膵臓癌についての記載は無い。市川千枝子氏は新しい研究の成果を得る努力などはせず、過去になされた根拠に乏しい主張を繰り返しているだけのようだ。

市川氏は、血液型人間科学研究センター所長という肩書で「識者」*2として紹介されているため、読者の中には信じてしまう人もいるかもしれない。しかし、実態は代表的なニセ科学である「血液型人間学」の継承者である。「末っ子のO型はとくに注意 マザコンになりやすいのはOとA」*3とか、「まさかの浮気しがちはA型妻 不倫に走りやすいのはB型説」*4とかいう主張を見るとよりはっきりする。

血液型人間学のような、いったん世間に受け入れられてしまったニセ科学を排除することはできない。できることは、定期的に批判を繰り返し、注意を促すことぐらいだろう。


*1:日本語で読める情報はたとえばここ。■膵臓癌リスクは、血液型を決定する遺伝子の変異に関連している | 海外癌医療情報リファレンス

*2:URL:http://www.tokiomonsta.tv/news/rel_expert.php?eid=150&p=1

*3:URL:http://www.excite.co.jp/News/column_g/20120813/Postseven_136212.html

*4:URL:http://www.excite.co.jp/News/column_g/20120808/Postseven_135892.html