NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

林衛さんからのメール 2018/5/1, Tue 09:49


みなさま:林 衛です

昨年11月九州大学での自由研究集会ではお世話になりました。

とくになとろむさんにゲストとして加していただけたおかげで,対論が実現できた点,改めて感謝申し上げたいと存じます。

そのなとろむさんから,自由研究集会での大事な論点に関していよいよお答えいただけるとのことです。
公開ページでの回答をご希望されていますので,あのときのFBページを活用したいと存じます。

「福島医大チームが過剰診断ではないとしている150を越える手術例にたいして,@NATROM さんは「過剰診断だ」とお考えですか?
こちらのFBページで回答お待ちしています。
https://www.facebook.com/events/135058797059461/permalink/173891356509538/

ただし,なとろむさんは匿名だということもあって,FBアカウントをお持ちではないので,メールで返信いただき,私が上のページに貼り付けるようしたいと存じます。

ツイッター上では,自由研究集会での資料を再確認するなど,なとろむさんのリクエストに応え,回答準備を進めていただけるようにしております。


https://twitter.com/SciCom_hayashi/status/991114143338975233

どうぞよろしくお願い申し上げます。

林衛さんからのメール 2018/5/2, Wed 20:17


なとろむさん・みなさん:林 衛です

お疲れさまです。

先にもお知らせした通り,以前から,福島小児甲状腺がん多発問題における,150を越える手術症例のうち過剰診断の数や害悪の程度をなとろむさんに質問しています(質問1)。

なとろむさんからは,字数制限のあるツイッターではなくメールで質問してくれれば回答,解説しますとのツイートをいただき,私は,その結果をFB公開ページに載せたいとお伝えし,回答を待っているところです
https://twitter.com/NATROM/status/991204408040931328


いっぽう,福島小児甲状腺がんが過剰診断であるとの根拠に関する私がリクエストしてきた情報をメールでの返信に先立ち,ツイッターでもなとろむさんが届けてくれていますので,みなさんと共有したいと存じます。

「以前も申してきましたが、韓国の成人の手術例にも径1 cm以上やリンパ節転移ありや甲状腺被膜外浸潤ありの症例はけっこう(数十%)あります(PMID: 23427907)。そういうものを含めて「悪性度の低い癌」とされているわけです。」
https://twitter.com/NATROM/status/991206125847564288

と,径1cm以上やリンパ節転移ありや甲状腺被膜外浸潤ありの症例でも,過剰診断となる「悪性度の低い癌」であると示しているのがなとろむさんのツイートですね。

「3年前から指摘しています[ https://twitter.com/NATROM/status/681388340415864833 … ][ https://twitter.com/NATROM/status/905577756930449412 … ]。同じところをグルグル回っています。底の抜けたバケツに水を入れているようです。」
https://twitter.com/NATROM/status/991207031464902656


以前から,なとろむさんが依拠されている情報源が,こちらでした。
遺伝研の川上さん(@koichi_kawakami)からの情報です。川上さんは,論文を検討するとともに,論文著者とメールでやりとりし,それをふまえてなとろむさんともツイッタで議論を重ねています。
「原文です。
”I do not have histology and size data on all of thyroid cancer in Korea. I can say that over 95% of thyroid cancer in Korea is papillary cancer, and their virulence is low.”」
https://twitter.com/koichi_kawakami/status/991258366948225025


つまり,papillary cancer(乳頭がん)であり,their virulence is(その悪性度は未分化がん,低分化がんに比べて)low (低い)ということであり,いま日本で議論されている,乳頭がんのなかの低危険度がん,高危険度がんの話ではなかったとわかりました。

ということは,@koichi_kawakamiさんが論文執筆者の方とメールでディスカッションをして得た内容を根拠とした@NATROMさん見解とは,悪性度の低いがん=(未分化がんでも低分化がんでもでもない)乳頭がんという意味での「悪性度が低い」がんだいう見解だったというわけです。

つまり,乳頭がんの診断=過剰診断,という主張になりますので,乳頭がんのなかでも低危険度がんへの過剰診断を抑制し,高危険度がんを見極めて細胞診を含む詳細な検査や手術などの治療対象とする日本の甲状腺がん専門医たちによるガイドラインの議論とは別の議論をなとろむさんとしてきたというわけですね。

ですので,なとろむさんとしては,同じところをグルグルと回っているとお感じになったのだとわかりました。

150を越える手術症例は確かに乳頭がんの症例です。経過観察を重視した精査の結果,高危険度がんが疑われるから手術しようとなった症例がほとんどですね。

川上さんはつぎのようにツイートしています。
「この韓国の論文は韓国人の成人の「切り過ぎ」に警鐘を鳴らしたもので、最初からわかっていたことですが、福島県で見つかっている小児甲状腺癌については何の参考にもなりません。」
https://twitter.com/koichi_kawakami/status/991264001324548098

甲状腺乳頭がんは未分化がんなどの予後の悪い甲状腺がんに比べたら一般的に「悪性度の低いがん」だという医学的認識は,共有可能だと思います。

追伸
質問1にお答えいただいた後,以下三つについてもお時間あるときにお答えお願いしたいと存じます。

乳頭がんの診断=過剰診断,だという議論なのだとしたら,疑問大です。やるべきは次の議論でしょう。

甲状腺専門の外科医師である清水一雄委員は,朝日新聞インタビューで,不利益を利益を考え合わせた上で甲状腺検査継続をとの見解を示しています。この主張をなとろむさんには反駁していただきたいと存じます。いかがでしょう?←質問2
https://twitter.com/SciCom_hayashi/status/989329867207467008

山下俊一ら長崎大グループがチェルノブイリの対照群のスクリーニング調査で明らかにしたのは,小児の場合,おとなとちがい甲状腺がんがざらざらと潜伏してはいないという医学的事実です。この事実から,UNSCEARがそれまで否定していた小児甲状腺がん多発を認めるように見解を変えた,という科学史的な事実もあります。

径1cm以上やリンパ節転移ありや甲状腺被膜外浸潤ありの症例でも,過剰診断となる「悪性度の低い癌」であると示しているのなとろむさんのツイートと類似の情報が,小児甲状腺癌は放置していてもよいという誤解を招いてしまっているようです。これはなとろむさんの本意ではないと思います。

これら医学的事実とは異なり,小児でも過剰診断となる甲状腺がんが潜伏しているとお考えなのでしょうか。←質問3
上記,科学史的事実や誤解の広まりについて,なとろむさんは,どうお考えなのでしょうか。←質問4


いい連休をおすごしください。

なとろむからのメール 2018/5/3, Thu 21:41


林衛さんへ。

・「福島医大チームが過剰診断ではないとしている150を越える手術例にたいして,@NATROM さんは「過剰診断だ」とお考えですか?

多くは過剰診断であると考えています。以前のメールで既にお答えしています。該当部分を再掲いたします。

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>その1:鈴木眞一医師らは過剰診断はないとしているが,実際には200に近い手術例のうち90%が過剰診断だとなとろむさんはお考えなのですね。

90%は成人において検診で発見された甲状腺がんの中の過剰診断の割合の推定値です。福島県の場合は、90%が過剰診断でもおかしくはないとは思いますが、実際にはもうちょい少ないでしょう。

がんが検査で発見可能になってから臨床症状が生じるまでの期間をDPCP(早期発見可能前臨床期:Detectable Pre-Clinical Phase)と言います。DPCPがどれくらいの期間かは正確なところはわかりません。もしかしたら小児甲状腺がんのDPCPはすごく長い(長い場合は数十年間とか)もありえます。芽細胞発癌説を主張する高野徹氏なんかはそう主張していますね。

DPCPが長ければ、過剰診断の割合は下がります。過剰診断ではなく、将来症状が生じるがんを前倒しして発見していることになりますから。小児甲状腺がんのDPCPがどれくらいかはわかっていません。よって、過剰診断の割合もわかりません。不明確な点が多いのに福島県の過剰診断の割合がどれぐらいか、などと議論する意義をあまり感じません。
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****************
>つまり,手術症例200近くのほとんどが過剰診断だとはいえない,という点は,共有できると考えてよいでしょうか。

共有できません。DPCPが(津田先生が仮定したように)数年間ぐらいであれば、手術症例200近くのほとんど(95%前後)が過剰診断であるということもありえます。個人的には、DPCPはもっと長く、よって過剰診断の割合は95%よりは少なく、そのぶん狭義のスクリーニング効果の割合が多いのではないかと考えます。
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訂正および補足があります。まずは訂正です。「90%は成人において検診で発見された甲状腺がんの中の過剰診断の割合の推定値」と書きましたが誤りでした。90%は検診外で自覚症状を呈して発見された甲状腺がんも含めた数字です。検診で発見された甲状腺がんの中の過剰診断の割合は90%より高いと思われます。

補足です。ここでいう「過剰診断」はWelch and Black(Overdiagnosis in cancer., J Natl Cancer Inst. 2010 May 5;102(9):605-13)の定義です。つまり、「治療しなくても症状を起こしたり、死亡の原因になったりしない病気を診断すること」です。「狭義のスクリーニング効果」は「現時点では症状を呈さないが、将来において症状を呈し診断されるようになる病気を診断すること」です。こちらは一般的な定義ではなく、便宜的なものです。以下で論じております。症状がなく検診で発見されたがんは、過剰診断か狭義のスクリーニング効果のどちらかで、それ以外のものはありません。

スクリーニング効果の定義
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20151120#p1

ここまでの主張は、被ばくによる甲状腺がんの増加の有無の話とは独立しています。また、甲状腺がん検診の有効性とも独立しています。発見された甲状腺がんの治療介入の妥当性とも独立しています。


私からも林衛さんに質問があります。

Q-1. 150を越える手術例について「福島医大チームが過剰診断ではないとしている」と書いてありますが事実でしょうか?根拠の提示をお願いいたします。

過剰診断をWelch and Blackの定義とすると、いったいどのような根拠に基づいて福島医大チームが過剰診断ではないとしたのか、とても興味があります。世界中の誰もができなかった偉業です。私の理解するところでは、150を越える手術例について、過剰診断がかなりの割合で含まれ、もしかしたら大半が過剰診断であるかもしれないが、ある意味やむを得ず治療介入せざるを得なかった、というものです。過剰診断の割合について私と福島医大チームとで意見の相違はあるかもしれませんが、それにしたって、「過剰診断ではないとしている」というのはありえません。

ツイッターでは林衛さんが根拠らしきものを提示していただきましたが、「治療介入は適切であった」といった意味のことは書かれていても、「(Welch and Blackの定義での)過剰診断ではない」とは書かれていません。発見された病気に過剰診断が含まれていても、それどころか大半が過剰診断であっても治療介入が適切だとされていることはあります(例:大腸ポリペクトミー)。お手数をおかけして申し訳ありませんが、根拠の提示をお願いいたします。ただ単に資料の画像を示して「なとろむさんのご意見は?」などと述べるだけでなく、林衛さんの(私から見ると法外な)主張を裏付ける該当部分がわかるよう、明示してください。

過剰診断の定義はしばしば論者によって異なります。「診断も治療も現在のガイドラインに照らし合わせて適切に抑制的に行っている」という意味で「過剰診断ではない」との福島医大チームの主張を、林衛さんが誤って受け取った、という可能性のほうが高いと私には思われます。あるいは、次のメールで述べるように、林衛さんは「過剰診断」の一般的な定義をご理解していないゆえに話が通じていないという可能性もあります。

なとろむ

要約:福島県における甲状腺がんの過剰診断の割合の正確なところはわからないが、多くがそうであるとは言える。林衛氏は「福島医大チームが過剰診断ではないとしている」とする根拠を提示せよ。林衛氏の理解不足による誤解である可能性が高いと私は考える。

なとろむからのメール 2018/5/3, Thu 21:43


林衛さんおよびみなさま

林衛さんとのメールのやり取りでは驚かされることばかりでした。あまりにも基本的な事項についてご理解をされていなかったからです。それでも今回の2018年5月1日のツイートは改めてびっくりさせられました。

****************
つまり, @NATROMさんは生命予後を改善しない診断は過剰診断だとしていて,生命予後だけでなくQOL維持を目的としているという甲状腺専門医とは見解を異にしたまま,ぐるぐる議論が循環しているとおっしゃっているわけですか??
https://twitter.com/SciCom_hayashi/status/991254825399545856
****************

「生命予後を改善しない診断は過剰診断だ」とはしていません。私に限らずそのような意味で「過剰診断」の用語を使う論者はいません。たとえば、発見したときには既に多臓器転移をしており治療介入しても予後を改善させないようながんを診断することは、どうような意味であっても過剰診断ではありません。

いくらなんでもあんまりではないですか。これまで数年間、そもそもが「過剰診断」の定義をご理解していない人とやり取りをしていたと思うと、たいへんやるせないものを感じます。前回のメールも、おそらくは林衛さんにはご理解していただけず、

「つまり、なとろむさんは、○○とおっしゃっているんですね」
「違います。『いつもの言ってもいないことを言った』ではないですか」

というやり取りを繰り返すのでしょう。ただ、このメールはフェイスブックに転載してくださるというので、林衛さん以外の論者に伝わることを願っています。過剰診断やがん検診の有効性についてご質問のある方は、メール(natrom@yahoo.co.jp)か、ブログ

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/00180503#p1

のコメント欄でしてくだされば対応いたします。

なとろむ

要約:「生命予後を改善しない診断は過剰診断だとおっしゃっているのですか」という林衛氏の問いかけは、過剰診断の定義といったごく基本的な事項ですら林衛氏は理解していないことを示している。


なとろむからのメール 2018/5/3, Thu 21:46


林衛さんへ。

「乳頭がんのなかでも低危険度がんへの過剰診断を抑制し,高危険度がんを見極めて細胞診を含む詳細な検査や手術などの治療対象とする日本の甲状腺がん専門医たちによるガイドライン」に基づいても、過剰診断は避けられない、と申しております。何度も申し上げております。伝わっていますか。



>甲状腺専門の外科医師である清水一雄委員は,朝日新聞インタビューで,不利益を利益を考え合わせた上で甲状腺検査継続をとの見解を示しています。この主張をなとろむさんには反駁していただきたいと存じます。いかがでしょう?←質問2

「不利益を利益を考え合わせた上」という林衛さんのご理解は誤りです。清水一雄氏は、「不利益を利益を考え合わせた上」ではなく、「不利益という意味がよくわからない」と述べています。がん検診の有効性を評価するには、その不利益の意味を理解する必要があります。



>これら医学的事実とは異なり,小児でも過剰診断となる甲状腺がんが潜伏しているとお考えなのでしょうか。←質問3

「小児の場合,おとなとちがい甲状腺がんがざらざらと潜伏してはいないという医学的事実」という前提が誤りです。2017/10/1, Sun 23:15付のメールで指摘しています。(むろん、細かいことを言えば、成人と比較すれば小児の甲状腺がん有病割合は低い。例によって診断閾値をどうとるかで数値は変わってくるが成人では0.5-2.0%、福島県の小児は116人/30万人とすると0.04%くらいか)。


>上記,科学史的事実や誤解の広まりについて,なとろむさんは,どうお考えなのでしょうか。←質問4

「科学史的事実」については意味がわかりかねますが、「小児の場合,おとなとちがい甲状腺がんがざらざらと潜伏してはいないという医学的事実」という点については上記した通りです。

「小児甲状腺癌は放置していてもよいという誤解」という点については、検診介入の是非と発見されたがんに対する治療の是非の混同によるのでしょう。たとえば、卵巣がん検診は卵巣がん死を減らさず推奨度Dですが、発見された卵巣がんは放置してもいいわけありません(https://twitter.com/NATROM/status/783142102855147520)。

甲状腺がんについても放置していいなどと私は一言も言っておりません。発見されたがんはガイドラインに基づいて治療介入すべきです(というか治療介入せざるを得ません)。どうやったらこうした誤解を招かずに情報を伝えられるのかSTSのみなさまにはご教示いただきたいです。なにしろ、科学リテラシーや科学コミュニケーションを教えているという大学の先生と数年間やり取りしても、いまだに伝わっていないのですから。

なとろむ。

要約:抑制的なガイドラインでも過剰診断は避けられない。成人と比べて小児では甲状腺がんの有病割合が低いが、それでも福島県で観察されているぐらいの有病割合はこれまでの知見と矛盾しない。

林衛さんからのメール 2018/5/3, Thu 22:16


なとろむさん・みなさん:林 衛です

返信ありがとうございます。


2018/05/03 21:46、NATROM のメール:

林衛さんへ。

「乳頭がんのなかでも低危険度がんへの過剰診断を抑制し,高危険度がんを見極めて細胞診を含む詳細な検査や手術などの治療対象とする日本の甲状腺がん専門医たちによるガイドライン」に基づいても、過剰診断は避けられない、と申しております。何度も申し上げております。伝わっていますか。


ことばは伝わっていますが,内容が私には理解できません。

「過剰診断は避けられない」の意味は,過剰診断は(大幅に)減らすことはできるが,ゼロにはできないということでしょうか。であれば,わかります。

「避けられない」の意味をはっきりさせていただけないでしょうか。

生涯症状がでない病気を診断するのが過剰診断ですよね。低危険度の微小がんをたくさん診断し手術したのが韓国の例であり,そのようながんは診断せず,高危険度がん,つまり,深刻な症状を呈するので治療が必要だと考えられるものに絞って細胞診や手術をするようにしているのですから,過剰診断は減っているのではないでしょうか。

その結果,患者にとっての不利益が減り,病気の治癒,QOL維持が実現しているのだというのが,甲状腺専門の外科医の清水一雄医師の見解ですよね。だから,過剰診断論者のいう「不利益という意味がわからない」と清水医師が述べているわけです。

もしも可能でしたら,なとろむさんの考える,過剰診断の不利益について,ご教示いただけましたら幸いです。

そして,その不利益と利益とを比べた議論を今度こそ展開していただきたいと存じます。

林衛さんからのメール 2018/5/3, Thu 22:23


なとろむさん・みなさん:林 衛です

下のご説明によって,治療によって生命予後の改善が期待できない診断であるという意味で過剰診断を問題にされているのではなく,福島甲状腺検査によってみつかった150を越える手術例のほとんど(90%)は,放置しておいても生涯症状がでないがんだと,強く結論した上で,過剰診断を問題にされているのだと受けとめました。

そのお考えは,今も変わっていないというわけですね。

林衛さんからのメール 2018/5/3, Thu 22:39


なとろむさん・みなさん:林 衛です

下が核心部分へのご回答になると思います。

これをうまく整理して自由研究集会のFBページにアップしたいと存じますので,ぜひご協力をお願いいたします。

2018/05/03 21:41、NATROM のメール:

林衛さんへ。

・「福島医大チームが過剰診断ではないとしている150を越える手術例にたいして,@NATROM さんは「過剰診断だ」とお考えですか?

多くは過剰診断であると考えています。以前のメールで既にお答えしています。該当部分を再掲いたします。

多くというのは,どのくらいでしょうか? 下を読むと,90%という数字がでてきたり,それよりも多いかもとか少ないかもとか,よくわかりません。

また,過剰診断の定義としては,生涯症状がでない甲状腺がんを150近く手術するような過剰診断だということですね。


それが結論,なとろむさんの主張だとして,私にわからないのは,その根拠です。

検診の結果,過剰診断と狭義のスクリーニング効果(スクリーニングでねらう成果)が原理的に生じるというのは林にもわかります。
わからないのは,狭義のスクリーニング効果がほとんどなくて,ほとんどすべてが過剰診断だと結論できる理由です。

これをわかるように説明していただきたいと存じますが,いかがでしょう?

私も質問の仕方を変えるなど,しばらく考えてみたいと存じます。

福島医大チームは,過剰診断かもしれないがやむをえず治療せざるをえなかったなどとなとろむさんはお書きですが,どうしてそうなるのか。
経過観察を重視した上で,生涯無症状とは考えられない高危険度がんに絞って手術をして,再発例まででているのですから。

福島医大チームとなとろむさんとの考えのちがいは,
・福島医大チーム:生涯無症状とは考えられない高危険度がんを手術した
・なとろむさん:経過観察しようとしまいと乳頭がんの診断は90%が過剰診断(生涯無症状)だとわかりきっている

だということでしょうか?

なとろむからのメール 2018/5/3, Thu 23:54


林衛さんへ。

「90%は成人において検診で発見された甲状腺がんの中の過剰診断の割合の推定値です。福島県の場合は、90%が過剰診断でもおかしくはないとは思いますが、実際にはもうちょい少ないでしょう」と以前も書き、今回も再掲したにも関わらず、「福島甲状腺検査によってみつかった150を越える手術例のほとんど(90%)は,放置しておいても生涯症状がでないがんだと,強く結論した」とするのはなぜですか。私の書いた文章を読んでいますか。強く抗議します。ついでに言うなら「狭義のスクリーニング効果がほとんどなくて,ほとんどすべてが過剰診断だと結論」していません。

林衛さんは、きわめてしばしば、他人が言ってもいないことを言ったと誤って解釈します。

言ってもいないことを言ったとされてしまう問題について
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/00160929#p1

そのような人とは誠実に議論できません。過剰診断の定義についていまだにご理解していないのも読解力不足に由来するのではないですか。今後、私の主張を勝手に解釈してまとめることのないようにお願いいたします。私の主張に言及するときは、私の主張を正確に引用してください。

数字を明確にしないのは推測しかできないためと、数字が明確でなくても検診すべきかどうかという議論に影響しないためです。



>福島医大チームとなとろむさんとの考えのちがいは,
>・福島医大チーム:生涯無症状とは考えられない高危険度がんを手術した
>・なとろむさん:経過観察しようとしまいと乳頭がんの診断は90%が過剰診断(生涯無症状)だとわかりきっている
>だということでしょうか?

「福島医大チーム:生涯無症状とは考えられない高危険度がんを手術した」という林衛さんの解釈が誤りです。これも「言ってもいないことを言った」問題の一環です。林衛さんは、以下の質問に答えていません。

Q-1. 150を越える手術例について「福島医大チームが過剰診断ではないとしている」と書いてありますが事実でしょうか?根拠の提示をお願いいたします。

なとろむ。

要約:福島県の小児の甲状腺がんの過剰診断の割合について不明な部分を加味して慎重に幅のある表現を私はしていたが、林衛氏にはまったく伝わっておらず「ほとんどすべてが過剰診断だと結論」したかのように解釈された。いつもの「言ってもいないことを言ったとされてしまう問題」である。林衛氏には誠実な議論を行う能力に欠けている。また、「福島医大チームが過剰診断ではないとしている」とした根拠の提示を再度求める。

なとろむからのメール 2018/5/3, Thu 23:59


林衛さんへ。

このメールでは成人の甲状腺がんの話に限ります。ここが理解できないと先に進めません。




>「過剰診断は避けられない」の意味は,過剰診断は(大幅に)減らすことはできるが,ゼロにはできないということでしょうか。であれば,わかります。

違います。甲状腺がん検診においては過剰診断を大幅に減らすことはできません。2017年9月にもお伝えしました( https://twitter.com/NATROM/status/907384793326796800 )。



>「避けられない」の意味をはっきりさせていただけないでしょうか。

現在のガイドラインによる治療介入閾値と、超音波検査による甲状腺がん検診の組み合わせでは、多くの治療介入されてしまう過剰診断が出るという意味です。甲状腺がんはそういうものです。



>生涯症状がでない病気を診断するのが過剰診断ですよね。低危険度の微小がんをたくさん診断し手術したのが韓国の例であり,そのようながんは診断せず,高危険度がん,つまり,深刻な症状を呈するので治療が必要だと考えられるものに絞って細胞診や手術をするようにしているのですから,過剰診断は減っているのではないでしょうか。

(たとえば)95%であるところが90%にぐらいになら、減っています(厳密には過剰診断ではなく過剰治療が、ですが)。また、「高危険度がん,つまり,深刻な症状を呈するので」という部分は誤りです。この「高危険度がん」とは遺伝研の川上さんのいう「悪性度の低いがん」ですよ。「低危険度の微小がん」と比べて相対的に高危険度であるだけです。「深刻な症状を呈するので治療が必要だと考えられるものに絞って細胞診や手術をする」ことが可能なら、いったいなぜ、成人の甲状腺がん検診が推奨されていないのですか?



>その結果,患者にとっての不利益が減り,病気の治癒,QOL維持が実現しているのだというのが,甲状腺専門の外科医の清水一雄医師の見解ですよね。だから,過剰診断論者のいう「不利益という意味がわからない」と清水医師が述べているわけです。

これも何度が指摘しましたが、「低危険度の微小がん」の多くが経過観察しても治療介入を要さないものであるという事実が、「高危険度がん」も大半は(結果的には)治療介入を要さないものであったのであろう、ということを示しています。疾患のリスクは連続的なものです。径1 cm未満なら概ね治療の必要がないのに、径1 cmを超えたらただちに「深刻な症状を呈する」ようになるわけではありません。そもそも径1 cmというのは恣意的な基準ですよ。

たとえば、検診で発見された甲状腺がんのうち、

●「低危険度の微小がん」の99%が過剰診断

だとしましょう(たぶんだいたいそんくらい)。そのとき

●「高危険度がん」の1%が過剰診断

なんてことにはなるわけないですよね。成人の甲状腺がんだと、まあ概ね

●「高危険度がん」の90%が過剰診断

といったところです。「低危険度の微小がん」と「高危険度がん」は連続しています。90%が過剰診断だとして残りの10%の「狭義のスクリーニング効果」の分も、多くは(もしかするとほとんどすべて)症状が出てから治療介入しても予後が変わらないものではあるけれども、少数であっても手遅れになるのはまずいので、「やむを得ず」治療介入するんです。昔はそうした理由で「低危険度の微小がん」も治療介入されていました。もしかしたら将来は、現在「高危険度がん」だとされているものも経過観察が推奨されるようになるかもしれません。

さて、話を進めるには林衛さんがどこまで同意できるのかを知らなければなりません。

Q-2 韓国において治療介入された甲状腺がんには、確かに「低危険度の微小がん」も含まれていたけれども、同時に径1 cm以上やリンパ節転移ありや甲状腺被膜外浸潤ありといった「高危険度がん」も数十%含まれていたことに同意できますか?
Q-3 成人においては甲状腺がん検診が推奨されていないことに同意できますか?
Q-4 もし仮に、「深刻な症状を呈するので治療が必要だと考えられるものに絞って細胞診や手術をする」ことが可能だとして、成人においては甲状腺がん検診が推奨されていない理由は何だと考えますか?

なとろむ。

要約:成人の甲状腺がんの知見からは、現在のガイドラインに基づいて抑制的な介入を行ってもなお多くの過剰診断および過剰治療が生じることがわかっている。ガイドラインに基づいたら過剰診断を避けられるというのは誤解である。

これ以上の公開の中止について(2018年5月15日)

林衛さんから「私信の無断公開は,今回限りにしてください」との要請*1があったため、メールの公開はここでいったん止めます。しかしながら、これは私信ではないというのが私の見解です。林衛さんにはツイッターやクローズドのメールでさんざん不誠実な対応をとられたため、「ツイッターではなく、公開前提としたメール、もしくは、ブログのコメント欄などの、字数制限がないところでご質問ください」と数回にわたって*2表明した上でのやり取りです。しかも、「その結果をFB公開ページに載せたい」と林衛さんは述べています(林衛さんからのメール 2018/5/2, Wed 20:17)。もちろん「私信」であるとか「公開はしないで」とかいう断りもありませんでした。

つまり、「非公開でやり取りするつもりはない。公開前提としたメールなら質問を受け付ける」と数度にわたって表明している相手に対しメールで質問し、自分の方は「結果をFB公開ページに載せたい」と言いつつ、公開されたら「これは私信だから公開するな」と林衛さんは言いはじめたわけです。大学で科学コミュニケーションを教える以前に、人としてのコミュニケーションに難があると言わざるを得ません。

福島県の過剰診断といった複雑な問題については、適切な質問を行うにもそれなりの能力が必要です。その能力がないことが明確になってしまうがゆえ公開の場でのやり取りに林衛さんは消極的であると、私はみなしています。