NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

なとろむからのメール 2018/5/3, Thu 21:43


林衛さんおよびみなさま

林衛さんとのメールのやり取りでは驚かされることばかりでした。あまりにも基本的な事項についてご理解をされていなかったからです。それでも今回の2018年5月1日のツイートは改めてびっくりさせられました。

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つまり, @NATROMさんは生命予後を改善しない診断は過剰診断だとしていて,生命予後だけでなくQOL維持を目的としているという甲状腺専門医とは見解を異にしたまま,ぐるぐる議論が循環しているとおっしゃっているわけですか??
https://twitter.com/SciCom_hayashi/status/991254825399545856
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「生命予後を改善しない診断は過剰診断だ」とはしていません。私に限らずそのような意味で「過剰診断」の用語を使う論者はいません。たとえば、発見したときには既に多臓器転移をしており治療介入しても予後を改善させないようながんを診断することは、どうような意味であっても過剰診断ではありません。

いくらなんでもあんまりではないですか。これまで数年間、そもそもが「過剰診断」の定義をご理解していない人とやり取りをしていたと思うと、たいへんやるせないものを感じます。前回のメールも、おそらくは林衛さんにはご理解していただけず、

「つまり、なとろむさんは、○○とおっしゃっているんですね」
「違います。『いつもの言ってもいないことを言った』ではないですか」

というやり取りを繰り返すのでしょう。ただ、このメールはフェイスブックに転載してくださるというので、林衛さん以外の論者に伝わることを願っています。過剰診断やがん検診の有効性についてご質問のある方は、メール(natrom@yahoo.co.jp)か、ブログ

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/00180503#p1

のコメント欄でしてくだされば対応いたします。

なとろむ

要約:「生命予後を改善しない診断は過剰診断だとおっしゃっているのですか」という林衛氏の問いかけは、過剰診断の定義といったごく基本的な事項ですら林衛氏は理解していないことを示している。


なとろむからのメール 2018/5/3, Thu 21:46


林衛さんへ。

「乳頭がんのなかでも低危険度がんへの過剰診断を抑制し,高危険度がんを見極めて細胞診を含む詳細な検査や手術などの治療対象とする日本の甲状腺がん専門医たちによるガイドライン」に基づいても、過剰診断は避けられない、と申しております。何度も申し上げております。伝わっていますか。



>甲状腺専門の外科医師である清水一雄委員は,朝日新聞インタビューで,不利益を利益を考え合わせた上で甲状腺検査継続をとの見解を示しています。この主張をなとろむさんには反駁していただきたいと存じます。いかがでしょう?←質問2

「不利益を利益を考え合わせた上」という林衛さんのご理解は誤りです。清水一雄氏は、「不利益を利益を考え合わせた上」ではなく、「不利益という意味がよくわからない」と述べています。がん検診の有効性を評価するには、その不利益の意味を理解する必要があります。



>これら医学的事実とは異なり,小児でも過剰診断となる甲状腺がんが潜伏しているとお考えなのでしょうか。←質問3

「小児の場合,おとなとちがい甲状腺がんがざらざらと潜伏してはいないという医学的事実」という前提が誤りです。2017/10/1, Sun 23:15付のメールで指摘しています。(むろん、細かいことを言えば、成人と比較すれば小児の甲状腺がん有病割合は低い。例によって診断閾値をどうとるかで数値は変わってくるが成人では0.5-2.0%、福島県の小児は116人/30万人とすると0.04%くらいか)。


>上記,科学史的事実や誤解の広まりについて,なとろむさんは,どうお考えなのでしょうか。←質問4

「科学史的事実」については意味がわかりかねますが、「小児の場合,おとなとちがい甲状腺がんがざらざらと潜伏してはいないという医学的事実」という点については上記した通りです。

「小児甲状腺癌は放置していてもよいという誤解」という点については、検診介入の是非と発見されたがんに対する治療の是非の混同によるのでしょう。たとえば、卵巣がん検診は卵巣がん死を減らさず推奨度Dですが、発見された卵巣がんは放置してもいいわけありません(https://twitter.com/NATROM/status/783142102855147520)。

甲状腺がんについても放置していいなどと私は一言も言っておりません。発見されたがんはガイドラインに基づいて治療介入すべきです(というか治療介入せざるを得ません)。どうやったらこうした誤解を招かずに情報を伝えられるのかSTSのみなさまにはご教示いただきたいです。なにしろ、科学リテラシーや科学コミュニケーションを教えているという大学の先生と数年間やり取りしても、いまだに伝わっていないのですから。

なとろむ。

要約:抑制的なガイドラインでも過剰診断は避けられない。成人と比べて小児では甲状腺がんの有病割合が低いが、それでも福島県で観察されているぐらいの有病割合はこれまでの知見と矛盾しない。