NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

林衛さんからのメール 2018/5/2, Wed 20:17


なとろむさん・みなさん:林 衛です

お疲れさまです。

先にもお知らせした通り,以前から,福島小児甲状腺がん多発問題における,150を越える手術症例のうち過剰診断の数や害悪の程度をなとろむさんに質問しています(質問1)。

なとろむさんからは,字数制限のあるツイッターではなくメールで質問してくれれば回答,解説しますとのツイートをいただき,私は,その結果をFB公開ページに載せたいとお伝えし,回答を待っているところです
https://twitter.com/NATROM/status/991204408040931328


いっぽう,福島小児甲状腺がんが過剰診断であるとの根拠に関する私がリクエストしてきた情報をメールでの返信に先立ち,ツイッターでもなとろむさんが届けてくれていますので,みなさんと共有したいと存じます。

「以前も申してきましたが、韓国の成人の手術例にも径1 cm以上やリンパ節転移ありや甲状腺被膜外浸潤ありの症例はけっこう(数十%)あります(PMID: 23427907)。そういうものを含めて「悪性度の低い癌」とされているわけです。」
https://twitter.com/NATROM/status/991206125847564288

と,径1cm以上やリンパ節転移ありや甲状腺被膜外浸潤ありの症例でも,過剰診断となる「悪性度の低い癌」であると示しているのがなとろむさんのツイートですね。

「3年前から指摘しています[ https://twitter.com/NATROM/status/681388340415864833 … ][ https://twitter.com/NATROM/status/905577756930449412 … ]。同じところをグルグル回っています。底の抜けたバケツに水を入れているようです。」
https://twitter.com/NATROM/status/991207031464902656


以前から,なとろむさんが依拠されている情報源が,こちらでした。
遺伝研の川上さん(@koichi_kawakami)からの情報です。川上さんは,論文を検討するとともに,論文著者とメールでやりとりし,それをふまえてなとろむさんともツイッタで議論を重ねています。
「原文です。
”I do not have histology and size data on all of thyroid cancer in Korea. I can say that over 95% of thyroid cancer in Korea is papillary cancer, and their virulence is low.”」
https://twitter.com/koichi_kawakami/status/991258366948225025


つまり,papillary cancer(乳頭がん)であり,their virulence is(その悪性度は未分化がん,低分化がんに比べて)low (低い)ということであり,いま日本で議論されている,乳頭がんのなかの低危険度がん,高危険度がんの話ではなかったとわかりました。

ということは,@koichi_kawakamiさんが論文執筆者の方とメールでディスカッションをして得た内容を根拠とした@NATROMさん見解とは,悪性度の低いがん=(未分化がんでも低分化がんでもでもない)乳頭がんという意味での「悪性度が低い」がんだいう見解だったというわけです。

つまり,乳頭がんの診断=過剰診断,という主張になりますので,乳頭がんのなかでも低危険度がんへの過剰診断を抑制し,高危険度がんを見極めて細胞診を含む詳細な検査や手術などの治療対象とする日本の甲状腺がん専門医たちによるガイドラインの議論とは別の議論をなとろむさんとしてきたというわけですね。

ですので,なとろむさんとしては,同じところをグルグルと回っているとお感じになったのだとわかりました。

150を越える手術症例は確かに乳頭がんの症例です。経過観察を重視した精査の結果,高危険度がんが疑われるから手術しようとなった症例がほとんどですね。

川上さんはつぎのようにツイートしています。
「この韓国の論文は韓国人の成人の「切り過ぎ」に警鐘を鳴らしたもので、最初からわかっていたことですが、福島県で見つかっている小児甲状腺癌については何の参考にもなりません。」
https://twitter.com/koichi_kawakami/status/991264001324548098

甲状腺乳頭がんは未分化がんなどの予後の悪い甲状腺がんに比べたら一般的に「悪性度の低いがん」だという医学的認識は,共有可能だと思います。

追伸
質問1にお答えいただいた後,以下三つについてもお時間あるときにお答えお願いしたいと存じます。

乳頭がんの診断=過剰診断,だという議論なのだとしたら,疑問大です。やるべきは次の議論でしょう。

甲状腺専門の外科医師である清水一雄委員は,朝日新聞インタビューで,不利益を利益を考え合わせた上で甲状腺検査継続をとの見解を示しています。この主張をなとろむさんには反駁していただきたいと存じます。いかがでしょう?←質問2
https://twitter.com/SciCom_hayashi/status/989329867207467008

山下俊一ら長崎大グループがチェルノブイリの対照群のスクリーニング調査で明らかにしたのは,小児の場合,おとなとちがい甲状腺がんがざらざらと潜伏してはいないという医学的事実です。この事実から,UNSCEARがそれまで否定していた小児甲状腺がん多発を認めるように見解を変えた,という科学史的な事実もあります。

径1cm以上やリンパ節転移ありや甲状腺被膜外浸潤ありの症例でも,過剰診断となる「悪性度の低い癌」であると示しているのなとろむさんのツイートと類似の情報が,小児甲状腺癌は放置していてもよいという誤解を招いてしまっているようです。これはなとろむさんの本意ではないと思います。

これら医学的事実とは異なり,小児でも過剰診断となる甲状腺がんが潜伏しているとお考えなのでしょうか。←質問3
上記,科学史的事実や誤解の広まりについて,なとろむさんは,どうお考えなのでしょうか。←質問4


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