NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

ビタミンアレルギー

主にヤフー掲示板において、化学物質過敏症関連の発言をされているumihiko6さんが、こんなことを言っていた。


■Re: ビタミン自体にアレルギーが (Yahoo!掲示板 健康と医学 > 病気、療法と看護 > 全般 > 化学物質過敏症 )*1


ここで取り上げたのはビタミンそのものに対するアレルギーです。NAETではそのことに言及しており、ビタミン自体にアレルギーがあると服用した場合何らかの症状が起こることや、うまく吸収されずにそのビタミン成分の不足を起こすというのです。まったく驚きものですが、考えてみれば誘発中和療法でも基本的に神経伝達物質のヒスタミンやセロトニンの中和から始まるんですよ。また、「アレルギーのある食物は栄養にならない」は昔から食物アレルギー医師らによって言われてきたことです。


ビタミンそのものに対するアレルギー?念のため、医学関係文献データベースであるPubmedで"vitamin allergy"(ビタミンアレルギー)を検索したけど"Quoted phrase not found."(そんな医学用語は無いよ)であった。しかし、"NAET"というキーワードがあったため、だいたいどういうことか理解できた。NAETとは、Nambudripad's Allergy Elimination Techniquesの略で、インド生まれのカイロプラクターであるところの、デビ・S・ナムブドゥリパッドさんが開発した「東洋理論医学を用いた診断法とカイロプラクティック理論を用いた施術法」なのだそうだ。要するにカイロプラクティック系のQuackeryである。NAETでは、「アレルギーの関与していない症状・病気はほとんどない」と考え、アレルギーを除去(Allergy Elimination)すれば、症状が軽減・消失すると考える。ビタミンにアレルギーがあれば、ビタミンが吸収されないため体の不調が起こるという訳だ。ビタミンのような必須の栄養素に対してアレルギーなんか起こるのか、という突っ込みは野暮である。NAETのいう「アレルギー」とは、我々の知っているアレルギーとは異なる概念だからだ。



■NAET(エヌ・エー・イー・ティー)®とは(NAET JAPAN、以下強調は引用元のまま)*2


NAET®でいうアレルギーとは、個人のもつエネルギーと反発し、その結果個人の持つエネルギーを下げてしまうもの全てのことをさします。ですからアレルギーを引き起こす原因も、卵やほこり、ダニ、化学物質だけではありません。全ての食べ物、飲み物、薬、吸い込むもの、身に付けるもの、触るもの、見るもの、聞くもの、環境因子、感染物質、人、動植物、感情・信念など、この世に存在するすべてのものがアレルギーの原因(アレルゲン)となりうるという考えです。


ビタミンどころじゃなかったです。人や感情・信念にもアレルギーがあるのです。恐るべしアレルギー。ニセ科学においては、本来の意味とは異なる概念に対して科学用語(たとえば「波動」など)が使われる。NAETは、「今までの西洋医学の概念とは異なるエネルギー治療」であるそうだが、ならば西洋医学の用語である「アレルギー」を用いるべきではない。この時点で、NAETはニセ科学と断定してよい。あとは香ばしいところを紹介する。



■NAET(エヌ・エー・イー・ティー)®とは(NAET JAPAN)*3


検査は東洋医学の知識から、身体エネルギーの流れを何が、どこで遮断しているのかを突き止めます。検査に使うものは、患者さんの筋肉だけです。カイロプラクティックによる施術で使われる検査法をNAET独自に神経筋敏感反応検査(NST)として用います。

患者さんは上向きで横になり、あるものを持った時に、もともと強い筋力が強いままか、それとも弱く変化するかを検査します。

例えば、強かった筋肉が米を持っても強いままであれば、米は自分のパワー(エネルギー)を高めてくれる食品であり、施術の必要がないことがわかります。しかし、強かった筋肉が米を持つことによって弱くなってしまったら、米は自分のパワー(エネルギー)を下げてしまう食品ということになります。自分のエネルギーを下げるものを食べつづけることは、慢性疲労だけでなくさまざまな症状や病気の原因となるので施術する必要があります。


NAET独自などと言っているが、要するにOリングテストである。被験者が自分でアレルギーだと思い込んでいると、無意識に力を抜いたりするかもしれないので、ブラインド条件下でやらないと意味がないが、この人たちはそういう次元を超越している。



■NAET(エヌ・エー・イー・ティー)®による施術手順(NAET JAPAN)*4


また施術前にそのアレルゲンがどれだけ強いかを示す目安として、そのアレルゲンの影響を受けるであろう距離(施術後離れているべき距離)をNSTとQRTで調べます。

これは一般的には数m程度なのですが、強いアレルゲンの場合は50mという場合もあります。これは、50m先のアレルゲンにも身体(脳)が反応します、という意味です。

あるアレルゲンの施術が1回ではクリアしない場合、前回の避けるべき距離が50mだったのに、今回は30mに縮まっていれば、例えクリアしていなくても施術が進んでいることがわかります。


「50m離れていても」というところに注目してしまうのは素人。むしろ一般的には数m程度というところが味わい深い。NAETの人たちが、たとえば「卵アレルギー」と言ったときに、意味するのは卵を食べたら蕁麻疹が出るとか喘息が出るとかではなく、「数m離れた卵が個人の持つエネルギーを下げてしまう」ことを意味するのですよ、一般的に。「残留農薬のある野菜の3メートル近くに寄っただけで」身体が反応すると主張する化学物質過敏症の人がいたけれども、これだったのだろう。



■NAET(エヌ・エー・イー・ティー)®による施術手順(NAET JAPAN)*5


親が子供に、子供が親に非共鳴を起こす親子間アレルギーや夫婦間アレルギーといった対人アレルギーは、エネルギーレベルのアレルギーとして知られていないだけで実際とても多くみられますし、アレルギー症状にも大きく関与します。

このような場合、施術のサンプルは親・子供・妻・夫・同僚・友達・先生・ペットなどになります。事前にエネルギー転写機を使って簡単にサンプルを作ることも出来ますが、手をつないだり、イメージすることで施術が可能です。


あなたが職場で仕事に身が入らないのは、きっと上司に対する対人アレルギーのせいだ。引きこもりは対人アレルギーの重症例だろう(マジでそんなこと言ってそう)。エネルギー転写機もいい味出している。もはやここまでくると、代替医療というよりかは魔術のように見える。確かに、「化学物質過敏症」と相性はよさそう。「化学物質過敏症の第一人者」であるところのWilliam Rea医師は「神経伝達物質アレルギー」なる診断をしている(参考:■William Rea医師への懲戒請求(食品安全情報blog))が、この「アレルギー」も西洋医学で言うアレルギーと異なると考えると合点がいく。uneyamaさん@食品安全情報blogによる「神経伝達物質のような人体に必須の物質に対してアレルギーがあるというならその人はもう生きていけないはず」といった突っ込みは意味をなさない。


*1:URL:http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=HL&action=m&board=1139820&tid=2bd3xjaabca2airbei&sid=1139820&mid=2740

*2:URL:http://www.naetjapan.com/contents/about_naet.html

*3:URL:http://www.naetjapan.com/contents/about_naet.html

*4:URL:http://www.naetjapan.com/contents/naets_process.html

*5:URL:http://www.naetjapan.com/contents/naets_process.html