NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

瀬戸弘幸ウォッチ

■ナノ食品を売る右派政治家でも紹介した、「極右を自称する日本で数少ない政治運動家の一人」*1であるところの瀬戸弘幸氏。ナノゼリーを売ることはあきらめたようだが、「健康食品や加工食品、あるいは化粧品など人間の健康と美容全般に渡って意見の交換を行なうため」のブログを書いている。これがなかなか面白いよ。


■健康と美を優しく語るブログ 優健美館*2



・「人体の設計は、生の食べ物=消化酵素を取ることが前提*3って、ナチュラルハイジーン?


・「結核を治す抗生物質は、1926年、イギリスのフレミングによってペニシリンが発見されました*4。 ペニシリンは結核菌には効かない。


特にすごいのが≪優健美館読本≫*5。瀬戸氏は引用というか転載しているのだが、読んでいるとなんだかじわじわ来る。


・「アミノ酸というタンパクの分解酵素が働きます」。 アミノ酸は酵素じゃない。


・「分解され、やっと吸収されるときに、今度は腸管という目に見えない管を通ります」。 腸管は目に見える。意味不明だったのだが、2ちゃんねるで門脈のことではないかとの指摘があった。なるほど。


・「糖と脂肪の摂り過ぎが何故いけないのか、難民を見れば分かります。手足は細いけど、お腹だけ出ています」。 そりゃ、糖と脂肪の取り過ぎはいけないけどな。難民を見れば分かるって、難民は糖と脂肪を取り過ぎているのか。


・「尿が黄色くなるということはビタミンが吸収されず、すべて体外へ出てしまうのです」。 尿から出るってことは、いったんは吸収されたってことである。


優健美館読本の「著者は薬学博士の久郷晴彦先生」とのことだが、要するにこういう人。他にもたくさんツッコミどころはあるけれども、これぐらいにしておこう。素朴な体験談に加え、企業による宣伝を信じ、薬学博士の肩書きなどの権威に弱く、一部にマクロビオティックなどの代替療法が混じるといった感じ。自然科学についてのトレーニングを受けたことのない50歳代の男性の理解ってこんなものなのであろうか。

コメント欄にも注目。以前は瀬戸氏をたしなめる支持者がいたのだが、最近はツッコミとそれに反発する頭の悪い支持者ぐらいしかいない。政治的には瀬戸氏に賛同する層も一定数はいるのだろうが、これではまともな科学知識を持っている人は幻滅して離れていくであろう。その代わり別の層をゲットする計算でもあるのかな。

「自然な」食事および関連した疑似科学的な主張を好む傾向は、「買ってはいけない」などのように「左翼」の方々にもある*6。ところが、「右翼」の方々の中にもそういうことを言っている人たちがいて興味深い。瀬戸氏のブログを読んでその理由が少し分かった。「我々が長い歴史の中で学ん受け継いできたことは、それが今の時点で科学的に検証、立証されなくとも、それは否定されるべきではない*7。つまり、保守思想とリンクしているわけだな。昔は健康食品はもちろんのことナノテクもなかったわけで、ナノゼリーなんてもっての他だと思うのだが、それでは儲からないのであろう。

最後に、「管理人の柳生すばるさんは化学的知識を持っている方なので、このような方々と論戦しても平気だったのでしょうね(笑い)*8という瀬戸氏の発言を受けて、お詫びと訂正がある。「せと弘幸氏の科学の理解度は、週刊金曜日と同レベル」と私は評したことがあったが、たいへんに失礼な表現であった。大変に申し訳なかった。週刊金曜日の科学の理解度はせと弘幸氏よりもずっとマシである


*1:せと弘幸 オフィシャルサイトのプロフィールより URL:http://zzz.co.jp/profile.html

*2:URL:http://blog.livedoor.jp/yu_kenbi/

*3:URL:http://blog.livedoor.jp/yu_kenbi/archives/185853.html

*4:URL:http://blog.livedoor.jp/yu_kenbi/archives/182605.html

*5:URL:http://blog.livedoor.jp/yu_kenbi/archives/154700.html

*6:たとえば、「平和省地球会議」とかやっているきくちゆみさんは、ブログで「ガンなどの難病も治す生菜食の健康食」を紹介している。ナチュラルハイジーン系のトンデモ。URL:http://kikuchiyumi.blogspot.com/2007/10/raw-spirit-festival_13.html

*7:URL:http://blog.livedoor.jp/yu_kenbi/archives/10428.html

*8:URL:http://blog.livedoor.jp/yu_kenbi/archives/254278.html