NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

若者の献血離れが深刻

山口県のニュースを、痛いニュース(ノ∀`)が取り上げた。


■痛いニュース(ノ∀`):若者の献血離れが深刻…原因も対策も分からず


県内で若者の献血離れが止まらない−。
1996年度に3万8367人だった10−20代の若年層献血者が、2006年は1万5742人まで減少したことが、県赤十字血液センター(山口市野田)のまとめで分かった。献血者数自体も減少しているが、若者の献血離れはそれ以上に深刻。
献血者全体に占める若年層の比率は、96年の43.1%から06年は25.1%となった。
全国平均の31%を下回る結果に、関係者らは将来への不安を募らせるが、
明確な要因が分からず、有効な対策もないのが現状だ。


ニュースそのものよりもコメント欄に幻滅した。薬を飲んでいたり、輸血歴や海外渡航歴があったりする人は仕方がない。「仕事が忙しくて献血に行く暇がない」というのもいい。「針が痛いから嫌だ」「メリットがないのに何で献血しないといけないのか」「めんどくさい」というのも、まあ正直でありかまわない。問題は、無知と僻み丸出しのコメントが少なからずあること。たとえば、



何でわざわざ感染のリスクを背負ってまで無償で大事な血をやらなきゃいけないの?マゾ?


昔は行ってたけど、いまは行ってない
なんかエイズ感染とか悪いイメージがあるし…

献血と輸血の区別がついていない。献血に感染のリスクはない。針は全部使い捨て。食品の賞味期限偽装などと同じように、裏では実は使いまわしているのではないかという妄想を持っている人がいるようだが、使いまわす動機がない。ディスポの針のコストは微々たるもの。そもそも他人の血液のついた針を使いまわして一番リスクがあるのは現場の医療従事者ではないか。



なんでタダで糞どもの飯の種くれてやらなきゃならんのだ。


以前は善意でよく通ってたけど
それを赤十字が数万円で売ってぼろ儲けしてると知ってから
二度といってない

日本赤十字社の血液事業は赤字である*1。無論、公的な性格を持つ組織だけにお役所的な無駄もあるのかもしれないが、赤字の主因は検査費用の増大である。日本の輸血・血液製剤の安全性は世界でもトップレベルである。安全性を確保するのにコストがかかることを理解できない馬鹿がいるのは驚きである。馬鹿が献血しないのはしょうがないが、せめて黙っていて欲しい。共有地の悲劇と似たような構図があるのだろう。個々のメンバーが利己的にふるまって献血が減れば、売血や輸入に頼らざるをえなくなり、安全性やコストで結局は不利益を被るのだ。

その他、いくつか気になった点。外国渡航の条件が厳しすぎるという指摘はその通りだと思う。しかし、ここまで厳しい条件がついているのはBSE対策であり、リスクが不明のときは安全マージンを大き目に取るのは正しい。規準を甘くしておいて万が一感染が起きたら世間から総叩きではないか。輸血歴がある人の献血をお断りするのも同じ理由。海外渡航歴については、そのうち条件は緩和されると思う。

400mLの献血を強要されたという話もある。もちろん強要は良くないが、献血する方からは200mLも400mLもそう大して変わらない。基準を満たす健康な人が200mL余計に血を抜かれたからといってフラフラになることは通常はない。一方、400mLを献血してもらえれば、検査その他のコストは半分になる。安全性も高まる。400mLの献血をお願いするのは当然のことで、そうしないほうがお役所仕事。

献血したからといって、将来輸血されるときに優先されたり、安くなったりすることはない。よほどの緊急時でもない限り、O型の血液を他の血液型の患者に輸血したりしない。家族間の輸血もしない。健康診断代わりの献血はあまりよろしくない。エイズ検査なんてもってのほか。どうせ結果は教えてくれないことなっている。エイズ検査は保健所が無料・匿名でやっており、陽性のときのフォローもしてくれるからそちらをご利用のこと。

*1:日赤血液事業赤字148億円 過去3年検査費増え(朝日新聞)URL:http://www.asahi.com/health/news/TKY200710070122.html