NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

ウォシュレットから発ガン性の恐れ?

「水力発電マイナスイオン生成活水装置」なるものを売っている会社のページに面白いことが書いてあった。


■塩素で注意!温水便座から発ガン性の恐れ!*1


ディレカ開発のきっかけ
今から八年前、厚生省のデータをある医師から見せられ、お尻を洗浄するトイレ温水便座の普及に比例して、直腸ガン・結腸ガン・大腸ガンが増えていることに気が付いたからです。(開発者:田村喜久雄先生)





URL:http://uni-site.net/yoshi/water/triharomethane.htmlより引用


リンク先には、温水洗浄便座出荷台数・普及率のグラフおよび直腸癌・結腸癌・胃癌の増減グラフが提示されている。かのページの主張では、ウォッシュレット用の水道水に含まれる塩素やトリハロメタンやダイオキシンが悪影響を及ぼしているとのこと。むろん、ディレカとかいう「マイナスイオン生成活水装置」を取り付ければそのような悪影響を取り除くことができるから買え、というわけである。

経時的に変化する二つのパラメータ(この場合は温水便座の普及率と大腸癌*2)を提示して、その二つに因果関係を読み取らせるのは、統計のウソとしてはありふれたやりかたである。いうまでもないことだが、その二つのパラメータにまったく因果関係が存在しないとしても、見かけ上の相関関係が生じることはいくらでもある。たとえばインターネットの普及率も右肩上がりになっているが、インターネットと大腸癌に因果関係を読み取ることはよほどのトンデモさんでもしないだろう。ウォッシュレットと大腸癌に関係があると言いたいのであれば、少なくとも、ウォッシュレットを使用している家庭において有意に大腸癌の発生率が高いことを示す必要がある*3

業者の目的は、大腸癌を防ぐことにあるのではなく、商品が売れればよいだけなので、調査は必要ない。統計のウソにだまされてくれる人が一定数いれば、かような宣伝が成立するのである。他のページにも、「マイナスイオン」「水のクラスター」などのよくある宣伝文句が並ぶ。「作物の成長に有用な微生物が活発化」とか言いつつ、「レジオネラ菌を激減」という矛盾した記述もいつものやつという感じ。腐敗を起こす菌は殺し、発酵を起こす菌は活性化するそうなのだ。とびきり愉快な部分を引用する。


内部には、ナノテクノロジーによって可能となった強力な遠赤外線と放射線を放射するナノ技術による特殊樹脂チップが配置されています。
このチップには、鉱物26種、植物12種による38種類の天然物質が、15〜30ナノまで超微粒子化され、練り込まれています。ナノレベルまで微粒子化されているためすさまじい活性力を帯び、放射線ホルミシスとともに育成光線といわれる遠赤外線を強力に放射します

たとえば残留塩素(次亜塩素酸)は、不活性なマイナス塩素(次亜塩素イオン)となり無害化されます。もうひとつ大きな特徴は、ディレカを通過した水は渦巻き水流によってナノやミクロの気泡が発生すると考えられることです。
この小さな気泡は、破裂するときに大きな熱エネルギーを発生させます。
その温度は数千度といわれます。その証拠にディレカを循環させた水は、水温が上昇することが報告されています。
さいたま市のクリーニング店では、2トンの約20度の貯水が、一晩循環させることで40度程度まで連日上昇したと報告されています。これは、ディレカで生じた水中の気泡の破裂による熱であることが想像されています。

エネルギー保存則すら超越する謎のハイパーテクノロジー。統計のウソなど些細な指摘であった。


[追記2006.12.5]ディレカの相関関係と因果関係をごっちゃにした統計のウソについては小波さんとこでがいしゅつでした。


*1:URL:http://www.alpha-net.ne.jp/users2/takt/benza.html

*2:具体的に死亡率なのか罹患率なのかは不明

*3:厳密に言えばこれでも不十分である