NATROMのブログ

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「経済屋」のキビシイ統計の水準

「経済屋」であるCount_Basie_Bandさんのブログに、医学界に対する鋭い指摘があったので紹介します。


■Let's smoke!(墓の中からコンニチワ)


 タバコを吸うと肺ガンになるという怪説が登場して随分長い年月が流れました。しかし、納得できる統計は未だに示されていません。精々、肺ガン患者には喫煙者の方が多いという程度です。 つまり「日本のガン患者の99%は水道水を飲んでいるから水道水を飲むとガンになる」という珍説と同レベルなのです。日本人の99%は水道水を飲んでいるのですからガン患者にも同じ数字が出るのは当たり前でしょう。(Commentsの5番目に臨床医学者の見解を紹介してあります。要するに「商業主義」の「擬似科学」)
 私のような経済屋から見れば、先ず全人口に占める喫煙者と非喫煙者の数を把握し、その数で喫煙者の患者数と非喫煙者の患者数をそれぞれ除して比率を比較しなければ統計になりません。しかし、肝心の「全人口に占める喫煙者と非喫煙者の数」が掌握可能とはとても思えません。

非常に鋭すぎる指摘だと思います。「経済屋」にとって、全数調査でなければ統計にはならないのだそうです。私の知っている統計学では、母集団からサンプルを抜き出して調査する「標本調査」というものがあったように記憶しているのですが、きっと間違いなのでしょう。いや、勉強になります。しかし、「全人口に占める喫煙者と非喫煙者の数」を把握するのは現実的には不可能ですので、喫煙と肺癌の関係を統計的に証明するのは不可能だということになりますね。JT大喜びです。

よしんば全数調査が可能であり、喫煙者の患者数と非喫煙者の患者数をそれぞれ除して比率を比較したところで、喫煙以外の因子の影響を除外することはできません。たとえば、仮の話として喫煙と肺癌に関係ないとしても、喫煙と年齢に関係があり高齢者に肺癌患者が多ければ、肺癌患者数の比率に差が出てしまいます。統計的な証明とはなんと困難なことでしょう。年齢・性別・民族・住居地などの交絡要因を一致させた対照群と比較すればよいと私は習いましたが、全数調査ではないので「経済屋」の納得できる統計にはならないでしょう。

さらに、Count_Basie_Bandさんは、具体的な個々の事例を提示することで、喫煙と健康障害の関係について懐疑的な意見を述べます。


 最もニコチン含有率の高いタバコを50年間吸い続けた義弟が食道癌で他界しましたが、肺には何の汚れもありませんでした。心臓弁膜症で心臓弁をチタンに取り替えた義妹は、心臓病では日本有数と言われる病院を退院する際に喫煙を禁止されませんでした。質問したら、そんな出鱈目を信じちゃいけませんと叱られました。
 私の両親は共にヘビ-スモーカーでしたが90歳まで生きました。どちらも死因は呼吸器疾患ではありません。肺には何の汚れもありませんでした。

「ヘビースモーカーでも長生きの人もいた」という、きわめてわかりやすく、かつ説得力のある主張です。「酔っ払い運転は危険ではない。私の知り合いで何人も酔っ払い運転をしている人がいるけれども事故を起こした人はいない」「水俣産の魚を食べても水俣病にならなかった人もいるので、魚食は水俣病の原因ではない」「私の知り合いのB型の人はみな自己中心的だからB型の人は自己中心的だ」といった主張と同程度の強い説得力を持ちます。医学の視野の狭さを思い知らされました。「経済屋」の基準から見れば、ほとんどの医学・疫学には不十分な根拠しかないと言えます。ある治療が有効かどうかは、比較対照試験によって統計学的に判断されますが、全数調査ではありません。効果があるとされる治療を行っても、必ず治るとは限りません。「経済屋」の世界では「統計」とはみなされない水準で医療を行っていることを、我々医療人は恥じ入るばかりです。

さて、医学・疫学に対する新しい見方を学んだだけでもうお腹がいっぱいになってきましたが、とびきりのデザートがあります。ワールドカップでの日本の敗因についてのCount_Basie_Bandさんによる考察をみてみましょう。Count_Basie_Bandさんの知り合いの美容師は「男のプロスポーツ選手がチャパツに染めてくれと言ってきたら断固として断る」のだそうで、その理由は、「チャパツに染めた男は鎮痛剤の鎮痛作用の中で生きていることになり」「判断力が弱まり、集中力が維持できなくなる」からなのだそうです。具体的な個々の事例も提示されており、松井稼頭央がメジャーリーグでいまいちなのに対し、黒髪のイチロー、井口、城島は活躍しているというものです。ワールドカップでの日本の敗因もチャパツにあるのです。


■チャパツこそが敗因(墓の中からコンニチワ)


 そして彼の美容師の説の正しさを証明するかのごとき現象が、この数日、ドイツで起きている。アジア人と同じ黒髪民族であるイタリア、スペイン、ポルトガルが揃って決勝トーナメント上位に進出し、イタリアは日本時間の明早朝フランスと王座を賭けて戦う。これら3チームには髪を染めている選手はいない。全員真っ黒だ。
 一方、日本チームで黒髪なのは11人中3人から4人に過ぎない。皆チャパツかキンパツだ。惨敗の理由がいろいろ挙げられているが、私はチャパツキンパツを第一の要因とみる。ほとんどの選手が酩酊状態でゲームをやっているのだから。

「経済屋」であるCount_Basie_Bandさんがそう断言するからには、提示されていないだけで、きちんと全数調査がなされているのでしょう。それにしてもワールドカップ日本代表というのは、日本人の中でももっともサッカーの上手い人たちの集まりなのですが、鎮痛剤の鎮痛作用の中で生きているのに日本代表に選ばれる人たちの潜在能力はさぞやすごいのでしょうね。黒髪なのに日本代表に選ばれなかった選手もたくさんいますが、そういう「個々の事例」は無視してもいいのです。