「絶対に儲かる話」が例外なくインチキ話であるのと同様、「何にでも効く療法」は例外なくインチキであると考えたほうがよい。「こんなにも効果がある」と疾患名が並べば並ぶほど、効果のほどが疑わしく思える。実例。
■糖鎖の改善による有効な症例(URL:http://www.tousa-kenkyu.org/shourei/index.html)
糖鎖は身体全体の働きに関与している。病に負けない身体づくりは、糖鎖の改善から!
なのだそうだ。糖鎖には「細胞間コミュニケーションをとるためのアンテナの役割」があるそうだが、それが事実だとしても、「糖鎖構造栄養素」とやらを摂取したところで糖鎖の異常が改善するとは限らない。目が悪ければ目を食べればいいというのと同レベルの発想である。さて、「糖鎖構造栄養素(栄養補助食品)の摂取(食による代替医療)によって改善のみられた症例」がなかなかスゴイ。
糖鎖構造栄養素(栄養補助食品)の摂取(食による代替医療)によって改善のみられた症例 癌(胸・前立腺・卵巣・胃・肺)
脳性まひ
外傷による脳障害
筋萎縮性側索硬化症
四肢末端痛・潰瘍・冷感
精神分裂症
筋肉性ジストロフィー
パピロマウイルス
B型肝炎・C型肝炎
健康全般と老化糖尿病
動脈硬化
多発性硬貨症
タイーサック病
パーキンソン病
潰瘍性大腸炎
心理的脅迫症
脊髄損傷
神経性チック
貧乏ゆすりダウン症
気管支喘息
骨粗しょう症
複合免疫不全
黄班変性症
クローン病
躁うつ病
トウレット症
自閉症
驚愕反応症アトピー性皮膚炎
心筋炎
関節炎
リウマチ性関節炎
甲状腺炎
リンパ腺炎
網膜色素変性症
アルコール依存症
ハンチント舞踏病
ワグナー肉芽腫症脳卒中
脳溢血
エイズ
白血病
色盲
風邪
疱疹
いぼ
肉腫
肌荒れ「この一覧からも糖鎖構造栄養素のもつ広範な働きがわかります」とこのサイトにはあるが、この一覧から本当にわかるのは、糖鎖構造栄養素とやらの効果はなさそうであるということだ*1。これらの疾患群の中の一つにでも本当に効果があるのであれば、糖鎖構造栄養素は医療の現場で使用されている。「本当に効果がある」ことを証明するためには、ブラインド条件下で、治療群と対象群とで差があることを示す必要がある。そのような研究はなされていないので、「改善のみられた症例」を提示するしかないのだ。データをとらなくていいのでウソつこうと思えばつけるし、「改善」の定義を広くとれば治療による効果とは無関係に「改善した症例」を提示できる。さて、ここで、
効果×対象疾患<定数
という公式を提案したい。この公式に従えば、対象疾患が多ければ多いほど、期待できる効果の最大値は小さくなる。対象疾患が無限であれば、効果はゼロである。
たとえば、上記疾患リストにもあるC型肝炎の標準的治療法はインターフェロン療法であるが、大昔は慢性C型肝炎の治療は、肝庇護療法しかなかった。その当時は、慢性C型肝炎と他の慢性肝炎を区別する必要すらなかった。そこにインターフェロン療法が登場し、他の慢性肝炎と慢性C型肝炎を区別する必要が生じた。さらに、同じC型肝炎でも効いたり効かなかったりするものがあることがわかり、ウイルスのタイプや量で慢性C型肝炎をも細分化する必要が生じてきた。現在では、インターフェロン療法の中にもさまざまなものがあり、ウイルスのタイプや量によって使い分けることで大きな成果が上がっている。現在でも肝庇護療法は使用するが、肝障害全般に使用できる代わりに、効果は小さい。対象疾患が絞られれば絞られるほど、高い効果を期待しうることがわかるだろう。
他の疾患においてもこうした医療の進歩に伴う細分化はみられる。たとえば、肺癌と一口に言っても、大きく分けて4種類ある。加えて、stage分類や私が専門外ゆえに知らないイロイロな分類がある。「肺癌に効果のある治療法」を誰かが主張したとして、組織分類なしで肺癌全般に効くと謳っているというだけで、その治療法は怪しげであるとみなしてよい。ましてや、「前立腺・卵巣・胃・肺の癌に効果あり」なんて眉唾もいいところだ。上記されているような疾患群(エイズから貧乏ゆすりまで)だったらなおさらである。根拠のないインチキ治療にだまされるカモを捕まえるために、疾患名は多ければ多いほどよいと業者が考えていることは明白だ。
定数以下であるとしても効果と対象疾患の積がもっとも大きくなる治療法はなんだろうか。おそらく、減量か禁煙であろう。どちらも、対象疾患は数多く、効果も明確である。ただ、両者ともに「治療法」と言えるのかは微妙である。
*1:それとこの一覧を作った人の医学知識が乏しいこともわかる。「多発性硬貨症」「ハンチント舞踏病」って何だよ?「タイーサック病」「ワグナー肉芽腫症」という読み方は一般的でない