NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

医療過疎の原因は医師のモラル不足

ライブドアのパブリック・ジャーナリスト(PJ)なるものは、素人に記事を書かせて虚栄心を満足させる代わりに小銭をかすめとる制度とばかり思っていたが、なかなかどうして、大新聞の社説に勝るとも劣らない質の記事を、shimoohriさんが紹介してくれた。パブリック・ジャーナリストの高橋登氏による記事。「需要と供給のアンバランス」というタイトルからは、国際的に少ない日本の医師数を論じてくれるのかとも思ったが、かような陳腐な切り口ではない。まず、都市生活では仕事、ステータス、金銭面に有利である旨述べた後、なぜ医師が地方に向かわないかを以下のように論じる。


■需要と供給のアンバランス〜無医村の増加(livedoor ニュース)


 このため、医師の都市在住が固定化されて久しい。医療大学は広く国民に門戸が開かれているが、上記の理由から医師の大多数は決して地方には行こうとはしない。このために完全に医師がいない地方が激増している。こういった地域は過疎地域であり、老人が多い地域であることから社会問題化している。
 もちろん、他人が嫌がることは強制は出来ないので、任意の手段で誘導することが行われてきた。比較的裕福でない医師を過疎地域に誘導する方策を政府は採用していた。だが、裕福でない医師はあまり存在せず、地方行きを喜ぶ医師はさらに少ない、という理由で完全に頓挫してしまった。
 このために急患をヘリで輸送するなど、事態は悪化の一途である。間違いなく地方の存立を許さない重大事態であると言えよう。医療が受けられない地域に人が来るはずもないのだ。金銭的には保護されることは間違いがないので医師という職業全体のモラルの低下と言うことが出来る。しかし強制的に移住などは出来るはずもない。医師という高い尊敬を有する人々のモラルにしか期待できないのが現状である。

ブラボー。地方の医師不足は、医師のモラル不足というわけだ。それにしても、政府が採用したという「比較的裕福でない医師を過疎地域に誘導する方策」って具体的になんだろう?私には思いつかない。高橋登記者は、すばらしい情報ソースを持っているのだろう。「裕福でない医師はあまり存在せず」ってのも、大学病院で無給で働く医師も、世間一般から見れば裕福であるということであろう。庶民の目線から見たよい記事だ。

医師不足の根本的な原因は、そもそもが日本に医師が足りない(OECD加盟国の中では最低クラス)、医療費をかけていない(先進7ヶ国中最下位)ためというのが常識であるが、そのような常識にはとらわれない。近年の地方の医師不足の顕在化の原因は、大学医局の権力低下と、新研修制度であるというのもまた常識であるが、記事の中では一言も触れられていない。常識から自由でいられるのは素晴らしい。

常識的な見地からは、問題の解決方法は、医師の数を増やし、せめて先進国の平均レベルの医療費をかけることであろう。しかし、そのような当たり前の答えを読者は欲していない。優秀な記者である高橋登氏は、読者の望む答え、つまり、「お金をかけないとまともな医療を受けることはできない」ではなく、「現状が悪いのはとにかく医師のせいだ」という答えを提供する。総医療費を抑えたい政府や、保険外診療でひと儲けしたい保険会社その他にも都合が良い。医師のモラル不足ということにしておけば、まるく収まるのだ。


追記id:shy1221さんもとりあげていた。

■非医療従事者の方々の認識


ま、どの業界でも、業界以外の人には理解できないことは沢山あるから、何を言われてもじっとガマンだな。私はガマンせずに逃散しましたが。

医師のモラル不足だ!(w



追記:多くの医師ブログが取り上げている。

■自尊心とのつきあい方(ssd's Diary)
■[医療]無医村の増加?(ザウエリズム 【Zawerhythm】)
■[医療ニュース](へなちょこ医者の日記)
■モラル(おにぎりと麻酔科医)


居住地と姓名から、この記事を書いた人は医師ではないかという推測もあるが、いくらなんでもそれはあるまいよ。同姓同名の別人だろう。でも、もしかしたらということもある。医師不足に悩む僻地の病院関係者の方は問い合わせてみたらどうか。もしご本人だとしたら、神奈川などという都会での開業を辞めて、いますぐ僻地で働いてくれるであろう。