NATROMのブログ

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「ダーウィンよ さようなら」

自然科学が成功した理由の一つに、相互評価がある。新しい仮説を提唱したときには、手段・方法・対象を明確にして、第三者が検証できるようにしなければならない。また、その仮説がこれまでの知見に矛盾しないか、矛盾するならばどのようにその矛盾が説明されているのか、第三者によってチェックされなければならない。こうしたルールは最善のものではないかもしれないけれども、我々にこれ以上のことができるだろうか。たまに、こうした科学のルールに従わない人たちもいる。

というのも、最近機会あって、「ダーウィンよ さようなら」(牧野尚彦著 青土社)という本を読んでみたのだが、まあ酷いとしか言いようがない内容だった。ダーウィン進化論は間違っていて、その代わりに「生体高分子系には認識的に自己組織化する能力がある」という説を持ち出している。進化論と創造論から来られた方なら、「ああ、いつものやつね」という代物。しかし、進化生物学に素養のない人が読んだら、納得したり、一理はあると思ったりするかもしれない。そこで今回は、各論として「ダーウィンよ さようなら」の問題点のある箇所をいくつか(全部指摘していたら、元の本より長くなってしまう)指摘し、こうした疑似科学に騙されないための心得を総論として書く。

ある学説を否定するには、その学説に熟知しておく必要がある。ガリレオはコペルニクス以前の天文学をきちんと理解していたし、アインシュタインはニュートン力学を正しく理解していた。一方、「ダーウィンよ さようなら」の著者である牧野は、ダーウィン進化論を正しく理解していない。牧野の主張をわかりやすくたとえると、以下の通りである。「地球が丸いという説は間違っている。なぜなら、地球が丸いとするならば、地球の裏側にいる人は下に落っこちてしまうはずだからだ」。具体的に指摘していく。