NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

ホメオパシーが叩かれる理由

ホメオパシーは叩かれ過ぎか?

■「ホメオパシー叩き」は統合医療潰しを目的としていたのか?にて、週刊ポスト(2010年12月3日号)に掲載された黒岩祐治氏による『「ホメオパシー叩き」に隠された「統合医療は迷信」の権威主義』という記事を批判的に紹介した。その次号である週刊ポスト(2010年12月10日号)に掲載された『「ホメオパシー問題」に私がこだわった理由』にて、NATROMの日記に言及していただいた上で、黒岩氏の真意が説明された。



私自身、マスコミ報道の難しさを改めて感じるが、特に同じテーマを連続して取り上げた場合、記事の内容以上にある種のイメージが加速度的に膨らんでいく危険性を常にはらんでいる。”ホメオパシー叩き”と私は称したが、そう感じていた読者は少なくとも私の周囲には少なくなかった。
しかし、いかがわしい療法であるというイメージがホメオパシーそのものに限定されているなら、私はあえてこの連載で取り上げる必要はなかった。これが統合医療全体のイメージダウンにつながることを私は何よりも危惧していたのである。それが前号記事の主旨である。私はホメオパシー擁護論者ではないが、正しい統合医療実現論者であることは間違いない。


マスコミ報道が「記事の内容以上にある種のイメージが加速度的に膨らんでいく危険性を常にはらんでいる」という部分は賛成である。黒岩氏の連載は、「検証 医療とマスコミ」というものであり、黒岩氏は医療に関する報道のあり方を再考している。たとえば、1999年に発生した「割り箸死」事件報道についての黒岩氏の検証(■TVでは「かわいそうな患者とヒドイ病院」とやれば外れはない - 速報:@niftyニュース)は、完全に同意できる。この例は、「ある種のイメージが加速度的に膨らんでいく危険」を端的にあらわしているだろう。

たとえばの話、ビタミンK不投与事件が、テレビのニュースだけでなく、ワイドショーでも繰り返し報道されたのであれば、私も「これはいくらなんでも叩き過ぎなのではないか」と考えたかもしれない。しかし、私の記憶する範囲内では、テレビのニュースでは日本学術会議の談話発表がほんの少しだけ流されたくらいだった。ホメオパシーを批判的に扱ったワイドショーは、私は把握している範囲内ではない。新聞も、朝日新聞がかなり頑張ったが、他紙は物足りないように感じた。本音を言えば、朝日新聞の報道でも不十分なくらいだ。他の医療事故の報道と比較しても、ホメオパシーが叩かれ過ぎているとは言えないと私は考える。

しかしながら、”ホメオパシー叩き”と感じた人が少なくなかったというのも理解できる。ネットでも「ホメオパシーは叩かれ過ぎなのではないか」「砂糖玉にそんなに目くじら立てなくても」という意見を散見した。ホメオパシー批判の背景を十分に説明していないと、単なる「叩き」と考える人が出てきてもおかしくない。ホメオパシー批判の背景は、既に日本では、ホメオパシーは現代医学を否定して成立するビジネスとなっていることである。日本ホメオパシー医学協会、および、会長である由井寅子氏は、口先では「現代医学を否定しない」と言っているので、背景をよく知らない人は、ビタミンK不投与が、一部のホメオパスによる例外だと考えているようである。たとえば、黒岩氏は以下のように述べている。



今回問題になったのは、助産師がホメオパシーだけに頼りビタミンK2を投与せずに乳児を死亡させたということである。ホメオパシーそのものが死因ではなく、医療拒否が原因であることは明らかだ。協会自体も倫理規定の中で「病院の検査、診察等を受けることに否定的であってはならない」としているのであるから、助産師は倫理規定違反となるはずだ。
確かに、協会会長の由井寅子氏が「予防接種によって、健康を犠牲にして達成される予防などナンセンス」として、予防接種に否定的見解を示しているのは事実だ。由井氏は日本にホメオパシーを導入した張本人であり、強烈なメッセージ力を持った人物である。信奉者に「西洋医学よりもホメオパシーだ」と感じさせてしまったとすれば、その責任は大きい。そういう事実を前の原稿で触れていなかったことが「ホメオパシーの問題点を過小評価させる」といわれれば、それは率直に反省したい。

ビタミンK不投与の背景

助産師は倫理規定違反となるはずだ。然り。私もそう思う。日本ホメオパシー医学協会が、この助産師の倫理規定違反に対して、何らかのペナルティを課したのであれば、なるほど、「現代医学を否定しない」というのが口先だけでないことになろう。しかし、私の知る限りにおいては、この助産師は医学協会から何のペナルティも課せられていない。ペナルティを課せられるはずがない。会長である由井寅子氏が、ビタミンKではなく、レメディーを使えと言っていたからだ*1



(引用者注:赤ちゃんに)血液凝固のためにビタミンKを注射したりしますが、それをやると一足飛びにがんマヤズムが立ち上がるし、逆に出血が止まらなくなることもあるのです。そして難治の黄疸になることもあります。ホメオパシーにもビタミンKのレメディー(Vitamin-K)はありますから、それを使っていただきたいと思います。


マヤズムとは、ホメオパシー独自の概念で、医学協会では「症状の原因となる病気の土壌」と説明されている*2。この本には、ホメオパスであり助産師でもある鴫原操氏による「ビタミン剤の実物の投与があまりよくないと思うので、私はレメディーにして使っています」との記述もある(詳しくは■流産した女性に日本ホメオパシー医学協会会長の由井氏が掛けた信じがたい言葉 - Not so open-minded that our brains drop out.を参照)。


喘息に対する吸入ステロイドの否定

日本ホメオパシー医学協会が、実質的に現代医学を否定している証拠は他にもある。RAH-UK(由井寅子氏が学長を務めるホメオパシー専門学校)のサイトにある、喘息の発作が出ることが多くなったという相談者に対する回答*3を引用する。



管理人
よくあるパターンとして、体毒の排泄としての皮膚発疹をステロイドなどで抑圧すると今度は肺の粘膜から排泄しようとして咳がでます。この排泄としての咳を気管支拡張剤などで止めるとどうなるかというと、肺には異物があり続けるので粘液がどんどん溜まり続けます。こうして、咳が出続ける喘息に移行します。それをまた気管支拡張剤で抑圧し続けると肺にびっしり粘液が張りついて窒息死してしまうわけです。こうして、強いステロイドの気管支拡張剤が使われるようになった1990年以降、喘息は死に至る可能性の高い危険な病気になってしまったというわけです(予防接種トンデモ論より)。


詳しくは、■喘息に対するステロイド治療を否定するホメオパシーで述べたが、吸入ステロイドはむしろ喘息死を減らした。「ステロイドによって喘息は死にいたる病気になった」などという説明は、人を殺しかねない危険なものである。そもそも、「病院での検診が必要と判断される場合は、速やかにその旨をクライアントに伝えなければならない」という倫理規定に違反する。


肺癌に対する標準治療の否定

あと一つだけ紹介しよう。進行性の肺がんに対して、標準的な治療を明らかに否定している*4



管理人
癌は、体毒(老廃物)を分解するための工場ですから、レメディーとることで癌が増えることがあるようです。あるいは、レメディーをとることで癌を一個所に集めることもあるようです。化学療法(抗癌剤)や放射線治療などやられていない場合は、治癒の過程と言えるでしょう。現代医学での治療をやられてしまうと、ホメオパシーでの治癒は難しくなってしまうようです。
肺癌ということですが、昔は何の治療もせず癌と共存し長生きしてたり、苦しまずぽっくり行くことが多かったようです。今のように抗癌剤だの手術だのとやって免疫力が低下してしまうことで寿命も縮むし苦しむことが多くなってしまっているように思います。
由井先生が言われるように、癌は体毒の分解工場だとしたら癌はあってもよいし、というかありがたいものです。ただ、癌ができるのは体毒が溜まり過ぎて家庭で焼却しきれないから、癌という大型の焼却施設が必要になったわけですから、とにかく体毒出しを徹底してやること、生き方、考え方を180度変える必要があるわけです。老廃物を燃やす、低温圧搾した良質の油も必要になります。ホメガオイルは癌にとってもよいでしょう。癌によいというか、体毒をどんどん燃やしてくれるので、癌が必要でなくなるわけです。
ただ抗癌剤だのやってしまうと、ホメオパシーで癌は治癒しないと思った方がよいです。生命力を高めて排泄を推し進め、癌をなくしていこうするのがホメオパシーのやり方なので、生命力を著しく低下させてしまうと治癒させることができなくなってしまうのです。生命力が低下し免疫が著しく低下すると、体毒がますます溜まります。体毒がますます溜まるとますます癌が増えます。だからホメオパシーでは癌の治癒が難しいのです。


「現代医学での治療をやられてしまうと、ホメオパシーでの治癒は難しくなってしまう」と説明されれば、現代医学での治療はやめて、砂糖玉による治癒に期待する患者もいるであろう。ビタミンK不投与、喘息に対する吸入ステロイド否定、肺癌に対する現代医学の治療の否定の3例のみを挙げたが、このような例には枚挙にいとまがない。というか、日本ホメオパシー医学協会のホメオパスが、適切なタイミングで医療機関への受診を促した例を私は知らない。彼らは受診が必要かどうかを判断する訓練を受けていない。「あかつき問題*5」においては、悪性リンパ腫が「もはや治療の施しようがなく」なるまで進行しても、ホメオパスは医療機関への受診を促さなかったという。


「ホメオパシー叩き」には理由があった

ホメオパシー批判報道後も、ホメオパシー医学協会は方針を変えていないようだ(■ホメオパシーはまた人を殺すだろうで実例を挙げて論じた)。方針転換ができないのは、現代医学を否定することで成立するビジネスだからであろう。ワクチンや薬は毒であるというメッセージは、信奉者をホメオパシーに走らせる。レメディ投与後に症状が悪化することもあるが、ワクチンや西洋薬の毒が出る際の「好転反応」と説明できるのは好都合だ。また、肺癌の例からわかるように、現代医学否定は、ホメオパシーで治らなかったときの言い訳にも使える。

これがホメオパシー批判の背景である。ホメオパシーを批判する人と、一連の報道を”ホメオパシー叩き”と感じる人の温度差は、この背景を知っているかどうかによると考える。ホメオパシーについての報道は、朝日新聞とそのほかの新聞との間にも温度差があった。朝日新聞の記者は、ビタミンK不投与事件以前より、ホメオパシーについて取材をしていたと聞く。当然、他の新聞社の記者よりも詳しく背景を知っており、それが記事にも反映されたのであろう。

黒岩氏は、週刊ポスト(2010年12月3日号)において、「今、起きている出来事を全体の中でどの程度の問題として捉えるべきなのか、その構図がしっかりと描ききれないままに報道していることは少なくない」と書いた。ビタミンK不投与事件という出来事を、日本におけるホメオパシー問題全体の中でどのように捉えるべきなのか、いちばんしっかりと構図を描いていたのが朝日新聞である。もう一度言うが、ビタミンK不投与事件は、一部のホメオパスがしでかした稀な例外ではなく、多くの現代医学否定の行為の中でたまたま被害が明らかになった氷山の一角である。

医療ジャーナリストであれば、新聞の紙面では十分に伝えきれない問題を掘り下げることができるだろう。由井寅子氏に取材して、「ビタミンKのレメディーを使った助産師は倫理規定違反とならないのか?」「吸入ステロイドが喘息死を増やしたと言う主張にはエビデンスはあるのか?」「抗癌剤だの手術だのとやって免疫力が低下してしまうことで寿命も縮むし苦しむことが多くなった、というのは現代医学否定に当たらないのか?」などと質問する医療ジャーナリストはいないのか。代替医療についての知識を持ち、正しい統合医療実現論者であるジャーナリストが、その役にふさわしいだろう。「統合医療全体のイメージダウン」を危惧するのなら、ホメオパシー批判報道を権威主義によるものとみなして批判するより、いかがわしいものを積極的に排除する姿勢を見せるほうが有効ではないか。


*1:由井寅子、ホメオパシー的妊娠と出産、ホメオパシー出版、36ページ

*2:URL:http://www.jphma.org/About_homoe/about_homoeopathy.html

*3:URL:http://rah-uk.com/case/wforum.cgi?mode=allread&no=2404

*4:URL:http://www.rah-uk.com/case/wforum.cgi?no=2240&reno=no&oya=2240&mode=msgview&list=new

*5:http://www012.upp.so-net.ne.jp/mackboxy/Health/