NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

「水からの伝言」は科学を自称していないから疑似科学ではない?

疑似科学(ニセ科学)は「科学であるように見せかけていながら、科学ではないもの」をいう。血液型性格診断、マイナスイオン、水からの伝言、ゲーム脳、EM菌などが、疑似科学の例として挙げられることが多い。疑似科学に対してさまざまな批判がなされているが、この疑似科学批判に対してさらに批判がなされることがある。いわゆる疑似科学批判批判である。疑似科学批判の中に不適切なものや行き過ぎたものもあるだろう。そういうものに対する批判は別にかまわない。ただ、疑似科学批判批判には的外れなものが多いように私には思われる。たとえば、こんな具合。


■詭弁者(Interdisciplinary)のコメント欄のtittonさんの発言より


> 「なぜ水伝は擬似科学では無いか」もよろしく。


だから水伝は(少なくとも最近の水伝は)科学を自称していない。科学でないと明言さえしている。科学を自称していないものを疑似科学と呼ぶなら宗教だって疑似科学になってしまう。疑似科学も宗教も人心を惑わすという似たような面を持っているが、同じ方法では対抗できない。科学は科学でないものを批判できない。(有害な)思想は思想として批判すべきこと。


昨今の疑似科学批判者は科学の名を騙って思想を批判することが多い。それは科学を科学以外の目的に使っているわけで、疑似科学論者がやっていることと同じ。科学が批判できるのは提示された事柄が科学として見た場合妥当か否かだけであり、思想までは判断できない。


また「科学を装っている」という人もいるが、装っているかどうかは多分に主観的なものであり、文章をどう解釈するかとか社会通念に照らしてどうか等は科学が扱う問題ではない。もちろん科学とは別個に、有害思想や詐欺行為として批判するならそれは自由だ。しかしそれを科学の名の下に行うのは科学を逸脱した行為。


少なくとも最近の水伝は科学を自称していない、だから水伝は疑似科学ではないそうだ。水伝が科学を自称していないって、本当かな?「水からの伝言」を出版している株式会社アイ・エイチ・エムのサイトを見に行ってみたよ*1





波動と水を科学する 株式会社 I.H.M.


トップページに「波動と水を科学する」って書いてある。波動機器の歴史というページはもっとすごいよ*2。たとえばこんな具合。



もう一人は、アメリカでも有数の超心理学者であるディーン・ラディン博士です。博士は様々な意思のサイエンスに関わる実験を行ったことで紹介されていましたが、中でも江本勝 IHM総合研究所所長との合同実験である2,000人の祈りが水に与える影響の公開実験を行ったことで、その内容が紹介されていました。ここでも科学的な手順を守った実験を行い、水の氷結形状の評価については、一般人の投票によって評価するという客観性を持たせました。結果は、祈りの力が水の結晶構造を変える証明となったのです。


明らかに科学を自称してるよね。おそらく、「水伝は科学を自称していない。科学でないと明言さえしている」というtittonさんの発言は、AERAのインタビュー記事からだろうけど*3、「水からの伝言」への批判に対する言い訳であり、その言い訳ですら「今後、周りの研究者によって科学的に証明されていくと思う」などと答えている*4。本当に江本勝氏が、「水からの伝言はポエムだと思う。科学だとは思っていない」のであれば、自ら代表を務める株式会社アイ・エイチ・エムのサイトの不適切な記述を訂正すべきだ。

要するに、江本氏は二枚舌なだけ。疑似科学だと批判されたら、「いやいやこれはポエムですから。科学なんて自称していませんよ」と逃げつつ、一方では「科学的な手順を守った実験で証明されましたよ」と宣伝している。「水伝は科学を自称していないから疑似科学ではない」などという主張は、二枚舌の江本氏を利することになる。江本氏は「波動機器」と称する怪しげな機械を高値で販売しており、「機器」である以上、ポエムやファンタジーでは宣伝にならないことは、「水からの伝言」問題を追いかけている人なら知っている。疑似科学批判批判もいいが、「水伝は疑似科学ではない」などと主張する前に、そういう背景を知る努力を行って欲しいものだ。



追記(1月19日17時45分):いま気づいたけど、id:tittonさんから、「↑natrom 自分と意見が違うのは相手が無知だからメソッド発動」というブクマコメントをいただいていました*5。このエントリーを読んでもtittonさんは同じ意見でしょうか?少なくとも、tittonさんは、江本勝氏が代表を務め、「水からの伝言」を出版した会社が、「波動と水を科学する」と自称していることについて無知だったのではないでしょうか。


*1:URL:http://www.hado.com/

*2:URL:http://www.hado.com/hadokiki/hadokiki-history.html

*3:違うというのなら、情報元を明らかにするように要求する

*4:詳しくは、■「水からの伝言」江本氏の主張(2005/12/28)(水商売ウォッチング)を参照のこと

*5:URL:http://b.hatena.ne.jp/titton/20090119#bookmark-11722375