NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

ホメオパシー大百科事典は読み物として面白い

マヤズムについて調べたとき参考にした、ホメオパシー大百科事典。読み物として結構面白い。たとえばレウム(大黄)のレメディーのプロフィール(P162)。


レウムは不機嫌そうな顔をし、控えめで引っ込み思案だが、落ち着きがなく「口論はお手の物」というような人に最も適している。レウムが効果を発揮する子供は、怖がりで夜になるとめそめそする子供である。大人も子供もすぐに疲れる傾向がある。

控えめで引っ込み思案なのに「口論はお手の物」ってどんな奴よ。



クベバのレメディーのプロフィール(P160)。クベバは一般名が、クベブもしくはテイルド・ペッパー(P160)。


クベバは落ち着きがなく、少しのことでびっくりする人に適している。このタイプの人はしばしば喉が渇き、ナッツや珍味を欲しがる。性欲も激しい人が多い。

性欲も激しい



硫酸マグネシウムのレメディーのプロフィール(P154)。


硫酸マグネシウムは激しく怒りだしたり、過剰に反応したりするが、平和に対する特有の「マグネシウム」(勢いよく発火、発行する)的願望も持っている人に最も適している。このタイプの人は不吉な恐ろしい出来事を恐れ、不安で落ち着かないことが多い。人間関係の中で嫉妬心を抱くことも多い。


なんだか落ち着かない人ばかりだな。これらは特に面白いところを選んだんじゃないよ。たくさんある(320余あるそうだ)レメディーの説明がすべてこんな感じ。なるほど、ある種の疾患に対してはホメオパシーは効果があるだろう。ホメオパスは、レメディーを選択するにあたって、患者の症状だけでなく、患者の性格や場合によっては性癖までも把握しなければならない。患者と十分に時間をかけて対話することになり、それだけで癒される患者もいるだろう。「実際にホメオパシーをしている場面を見れば、それは治療というより、カウンセリングです」と、■ トンデモ嫁に関するフィールドワーク(痴呆(地方)でいいもん)で指摘されている。

残念ながら、現在の医療システムでは、医師がカウンセリングに十分な時間をかけることはコストが高すぎて現実的ではない。軽微な症状なら低コストでホメオパスのような”準医師”が診察し、重症のみを医師が診察するシステムがコストパフォーマンスの観点から見れば良いのかもしれない。まさしく「補完」医療。ただし、現在の日本では患者さんの専門医志向が強く、なんらかのアクセス制限とセットでなければ、こうしたシステムは機能しないだろう。重症の「見落とし」があったときの免責も必要である。

免責と言えば、良心なのか責任逃れなのか、本書では現代医学も認めている。たとえば、結核(P182)については、「ホメオパシーが重要な補助的役割を果たすことは可能である」と言いつつも、「ホメオパスが結核患者を単独で治療することは稀である。結核に感染したら、医療当局に通知することが義務付けられており、必然的に現代医療の治療を行う」とある。「結核でしたら、ホメオパシ−をお勧めします*1」という無知で無責任なホメオパシージャパン掲示板の管理人と対照的。

応急処置のページ(P270-271)は素晴らしい。まず、蘇生のABC(A-気道、B-呼吸、C-脈拍)について書いてある。応急処置が済み、救急車を呼んでから、「バッチ・レスキュー・レメディー。負傷者の口の中に10分ごとに2滴、救急車が到着してから垂らします」。安全な体位(回復体位)への言及もある。骨折についても、患部の固定や止血について述べた後、「骨折箇所が手だけのときは、自分たちで病院へ連れて行きましょう」。手の骨折ぐらいで救急車を呼ぶな、ということ。この本は要するに「家庭の医学」なのだ。現在の日本のおいて、一次救急外来に受診する人の中で本当に医療の必要な人は一握りである。また、軽症者による救急車利用が問題になっている。「発熱ぐらいで時間外外来に来るな。安静にしてしばらく様子を見てろ」と言われても、不安な気持ちは抑えられない。しかし、「レメディーを与えて効果を見る」間だけは、不安感は減るだろう。たとえ、そのレメディーに効果がないとしても。科学的根拠がないことを承知の上で、現代医療を「補完」する医療を認めることで、不適切な受診が減って医療費が節約できるかもしれない。補完医療は安価で安全なものが望ましい。安価で副作用のないものと言えば、砂糖玉以上のものはあるまい。

なお、この本には、ワクチン否定は、私が読んだ範囲内ではなかった。


*1:URL:http://www.homoeopathy.co.jp/bbs/index.cgi?mode=all_read&no=1096&page= 隔離の必要性について知らないのに安易にホメオパシーを勧める無責任さに唖然。