煙草の害に関しての意見には両極端があるようで、能動喫煙すら害は証明されていないと主張する一方の端と、喫煙の害を過大に主張するもう一方の端とがある。「たばこの害は医学的に証明されたといっても、実際のところ、証明なんて言うのもおこがましい状態だ」という養老孟司の主張を紹介したので、今回はもう一方の反対側の端を紹介する。ネタ元は、みんなが大好きなTOSSランド。
3.受動喫煙の恐怖を知らせる
Aさんの奥さんにやっと赤ちゃんができました。なかなかできなくって、やっとさずかった赤ちゃんでした。
Aさんと奥さんはとびあがらんばかりに喜こびました。半分あきらめていましたから・・・。
ところが、その赤ちゃんは死んだまま生まれる「死産」でした。
赤ちゃんの肺からは、考えられないほどたくさんのニコチンとタールが検出されたそうです。今から先生が読むのは実話です。と話し、資料を読み上げる。そして、どうして赤ちゃんの肺からニコチンやタールが検出されたのでしょう。と発問し、資料に書きこませる。列指名で発表させた。
「お母さんが煙草を吸ったから」「お母さんが吸った煙をおなかの赤ちゃんが吸ってしまったから」という意見が中心であった。そこで、
実はお母さんは1本も煙草を吸いませんでした。
と伝える。数人の子どもたちが勢い挙手をした。
「Aさんが吸った煙をお母さんが吸ってしまった。」
そこで、タバコの煙について資料をもとに説明する。
煙草の煙は前からと吸うほうからと出ています。吸うほうからでる煙を「主流煙」といいます。前から出てくる煙を「副流煙」といいます。そして問う。「主流煙」と「副流煙」ではどちらがより大きな害をもたらすのでしょうか。挙手させると圧倒的に子どもたちの反応は「「副流煙」であった。実は副流煙の方に害が大きいのです。主流煙の3倍の害があります。奥さんはAさんの吸う煙草の副流煙を吸い、それをおなかの赤ちゃんが吸収してしまった結果なのです。自分が吸わなくても吸っているのと同じことになります。と説明する。
マルチ商法の「羊水からシャンプーの香りが!」というセールストークと同レベルの与太話。生徒はこの話から、受動喫煙の害ではなく、大人は実話と称して嘘をつくこともあるという教訓を得るべきだ。嘘であると断定する理由は、死産児の「肺」からニコチンとタールが検出されたという点。この話を「作った」人は、胎児は肺呼吸をしていないことを知らなかったとみえる。それに、ニコチンはともかく、タールは胎盤を通過しないだろう。
妊婦の能動喫煙が胎児に悪影響を与えるというのは事実である。受動喫煙もおそらく悪影響はあるだろうが、死産と明確な関連があるという証拠は、私が調べた限りでは見つけることはできなかった*1。主流煙より副流煙の方が害が大きいというのは嘘だ。3倍の害とかいう数字は、含まれる有害化学物質の量などから出てきたのであろうが、主流煙は直接吸い込むのに対し、副流煙は空気によって希釈されるのだ。希釈の効果を考慮せずに受動喫煙の害を声高に主張するのは、やはり希釈の効果を考慮せずに排気ガスのほうが能動喫煙よりも有害だと主張するのと同じ誤りに陥っている。
実際のリスクの大きさを評価するには、有害化学物質の濃度などよりも、疫学調査のほうが適切である。肺癌のリスクについては良く調べられているが、能動喫煙の相対リスクが概ね4倍程度とされているのに対し、受動喫煙ではせいぜい1.2倍といったところで、他の疾患に関しても似たようなものであろうと推測できる。受動喫煙については、害はあるがリスクは小さいと考えるべき。能動喫煙と違って本人が吸いたくて吸っているわけではないし、喘息等の急性の健康障害もあるし、臭いなどの健康被害とは別の次元の問題点もあるわけなので、リスクが小さいとは言え受動喫煙の対策は必要である。しかし、過大に受動喫煙の害を宣伝してよいわけではない。教育の現場では、正確に喫煙の害を伝えればそれで十分であろう。
「禁煙ファシズム」を批判している人たちも、こうした「ヨタがかなり混じってる」主張を相手にすればいいのに。なんでわざわざ、きわめてよく確立されている「癌」に拘るんだろう。「喫煙は有害です。喫煙は肺癌の原因です。しかし私たちは喫煙のリスクをよく理解した上で受け入れています*2。社会的コストは負担します。非喫煙者に迷惑はかけません。だから、喫煙場所を増やしてください」と主張されれば、反対する理由はない。