NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

確率ビジネス

こういうギャンブルがあったら、みんな参加する?


ある夫婦の次に生まれる子供の性別を当てる。参加料は5000円。オッズは3倍。つまり、性別を当てたら15000円もらえるので合計はプラス10000円。外したらマイナス5000円。(死産や双生児はノーカウント)。

私なら参加する。大まかにいって男女比は1:1。オッズが2倍以上であれば、新生児の性別を当てるギャンブルの期待値はプラスになる。胴元が損するだけなので、実際はこのようなギャンブルは存在しない。しかし、うまいことやれば、多くの夫婦を相手に同等のギャンブルを行うことができる。



男女産み分け法を教えます。お代は10000円いただきますが、もしお子様がご希望の性別でなかったら、いただいた10000円に加え5000円をプラスして返金いたします。


たとえ産み分け法がまったくのデタラメであったとしても、だいたい半分の夫婦が希望する性別の赤ちゃんを得る。計算していただければお分かりになると思うが、最初のギャンブルと期待値は同じ。依頼者の夫婦は、希望する性別の赤ちゃんを得るか、でなければ5000円の色をつけて返金されるので、騙されたとは思わない。ビジネスとして成功するには最初になんとかして信用を得なければならない。産み分け法に説得力を持たせなければ信用されない。ドラマ「トリック」では、主人公の母親が同様の商売を行った。


■ドラマのあらすじ参照画面


 奈緒子の母・里美(野際陽子)は、長野で書道教室を開いているが、里美の書く文字には不思議な力があり、最近また、新しい商売を始めた。
 それは、「女の子が欲しい」、「男の子が授かりたい」という願いを叶えるお札。1枚1万円。
 「男女産み分けお札」
 万一外れた時は、5000円足して、都合1万5000円返す良心的なお札と言う。


この場合「里美の書く文字には不思議な力がある」と周囲に思われていることが信用の担保になっている。実際にそういう力があるかどうかは問題ではない。効果があると思わせられるのなら、「不思議な力のある文字で書かれたお札」でもいいし、「古代中国の秘術」でもいいし、「最新の科学に基づいた産み分け法」でもいい。男女産み分け以外にも応用が利く。たとえば、以下のような事例。


■うちの子供はゲイかしら?(医学都市伝説)


世の親にとって、自分の子供がゲイであるかどうかは最大の関心事である。こちらのサイトは、たったの19.99ドルという格安料金と簡単な作業だけで、子供の性的好みの偏位を判断するサービスを提供してくれる。
しかも、もしその判断が間違っていれば、料金の150%を返還するという保証つき。判断の誤りが判るのはかなり先、という事実を割り引いてみても、これほどの良心的運営は珍しいと思われる。
判定は実に簡単で、サイトの指示通りに判定用紙をダウンロードして印刷し、指示された場所を赤ちゃんになめさせ、それを郵便で検査センター送るだけ。料金はpaypalで決済される。
どんな手段で判定するのか、というのはあまり詳しく書いていないのだが、なんか遺伝子を調べるような手順ではある。もっとも、ゲイというのは遺伝子レベルで決定されているわけではなし、間違っていたら150%返金という自信の根拠がどこから来るのか、かなり疑問である。


webmasterさん@医学都市伝説が指摘するように、スパム情報収集目的か、子供の性的好みがわかる頃までにはトンズラする詐欺と思われる。しかし、本当に返金するつもりかもしれないよ。子供がゲイである確率は50%どころかもっと低いだろうから、たとえ子供の性的好み判定がデタラメであり、予測を外したら料金の150%を返還するとしても、期待値はプラスになる。唾液を送らせるのは、「不思議な力のある文字」と同じく、信じさせるための小道具。送りつけられた唾液はそのまま廃棄し、自動的に「あなたのお子様はゲイではありません」と返事を出す。10数年後に返金する事例があったとしても、利用者が十分に多ければビジネスとして成立する。子供がゲイである確率を大まかにでも推測できたら、料金の返還率をもっと上げることもできる。