■ファインマンの手紙 リチャード・ファインマン(著), ミッシェル・ファインマン(編集), 渡会圭子(訳)
高校生のころ、私はご冗談でしょう、ファインマンさんから多大な影響を受けた。物理学者。ノーベル賞受賞者。それ以上に、科学を愛することを教える教師であった。そのファインマンさんの書簡集。編集のミッシェル・ファインマンはファインマンさんの娘。学生時代から亡くなる前年まで、さまざまな人に出した手紙、受け取った手紙が収められている。初期のころは家族や同僚が主な相手。最初の妻のアーリーン・ファインマンとの手紙(「新しい住所を知らない」ため出さなかった手紙も含め)も収録されている。1965年にノーベル物理学賞を授与されたときには、多くの人からお祝いの手紙をもらった。また、「相対性理論は間違っている」系のトンデモさんとも手紙をやり取りしている。
もし本当に、私の考えが間違っているなら、それをぜひ知りたいと思います。私は何年もこれらのアイデアを、自分の物理学研究の基本として使ってきましたが、明らかな矛盾が生じたことはありませんでした。それどころか、新しい現象を予測するのに、とても役に立っていると思えます。もし次の二つのことを満たす他の見解があるというのであれば、それは驚くべきことですが、とても喜ばしいことでもあります。
(1)これまで実験でつぶさに観察されてきたすべての結果をすべて正しく予測する。
(2)双子の話の、違った結果を予測する。(P186)
丁寧すぎる。さすがファインマンさん。以後、何度かやり取りが続くが、どのような予測を行うのか明確にせよというファインマンの要求が無視され続けて終わった。
物理学者は当然としても、他の分野の有名な科学者とも手紙をやり取りしている。フランシス・クリックに対しては、心苦しいが時間がなくて論文は読めないという返事(「すばらしいものだとわかったら、また考えごとが増えてしまうからね」)。ジェームズ・ワトソンには、「二重らせん」の原稿に対する絶賛(「できるだけ修正せずに出版しなさい」)を。ファインマンさんが悪性腫瘍の手術を受けたことを聞きつけたライナス・ポーリングからも手紙を受け取った。内容は、もちろん、メガビタミン療法の勧め。ファインマンさんは、医師にポーリングからの手紙を見せ、参考資料について知っておいてもらえるように頼んだ。
意外に(というかよく考えれば当然なのだが)多かったのが、学生からの相談の手紙に対する返事である。
懸命に勉強して、君を虜にするものを見つけ出しなさい。それが見つかれば、一生の仕事が何かわかるでしょう。地面を掘っている人の中には、他人のために彫っている者や、強制されたから、あるいは愚かさゆえに彫っている人―こういう人は”道具”にされているだけです―もいるかもしれませんが、端から見たら同じでも、もっと懸命に取り組み、宝物を求めて掘っている人もいるはずです。宝物を求めて掘りなさい。それが見つかれば、何をすればいいかもわかるでしょう。そのときまで決断をする必要はありません。目の前の仕事を進めて、選択肢を残しておきなさい。
(中略)
夢中になれるものを探している間は、それが物理学以外の分野で見つかる可能性を、完全に忘れてしまってはいけない。自分の仕事に満足できるのは、特定分野の専門家でも、多芸多才の人間でもなく、夢中になれることをしている人間なのです。君は何かに惚れ込まなければいけません。(P327)
確かに、ファインマンさんは、一生をずっと宝物を求めて掘り続けた。「金庫を破り続けた」のほうが適切かな。