NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

ナノ食品を売る右派政治家


維新政党・新風より公認され比例区に出馬した、せと弘幸氏が、なにやら怪しげな商売をはじめたらしい。


■ナノテク食品と販売開始のお伝え*1


 これは私の友人が6年ほど前から取り組み、技術的な経験を積み重ねて、ようやく完成にこの度こぎつけたものです。今、薬品会社や健康食品会社から問い合わせが殺到しているとのことです。
 ナノ化した商品はしない商品と比較して、もう比べものにならない程に体内への吸収率が高くなります。普通の食品は食べて胃でこなし腸に送られ、そこでミクロン単位の粒子となって体内に吸収されます。
 しかし、ナノ化された加工食品は口に入ると舌下から吸収が始まるわけです。健康食品として宣伝しなくとも、その効果効能をしっかりと消費者にアピールすることが出来ます。


本当に吸収率が高くなるかデータは示されていないが、仮にそうだとして、舌下から吸収される加工食品にはどれくらい意味があるのか。確かに、舌下投与する医薬品はある。吸収された薬品は肝臓を経由せずに全身に運ばれるので効果の発現が早い。狭心症に対するニトロ製剤など、速効性が期待される薬物が舌下で投与される。でも、加工食品に速効性は期待されているの?わざわざナノ化しなくても、いずれは消化管で吸収されるのではないか。

百歩譲って、ナノ化によって、「効果効能」がある成分の吸収効率がきわめて上がるとしよう。安全性は確保されているのだろうか?「食品としての安全性は確保されているから大丈夫」という言い訳は通用しない。なぜなら、通常の食品として消化管から吸収される量では安全でも、舌下から大量・急速に吸収されたときに安全かどうかは誰も知らないからだ。

効果・効能というのも、ブルーベリーのアントシアニンは目に良いというレベル。言うまでもないが科学的根拠はない。だいたい、医薬品でないのに、「効果効能をしっかりと消費者にアピール」するのは薬事法違反であろう。安全性については、「桑茶、大麦、蜂蜜花粉、コラーゲンなどは安全性が証明されました」とあるが、どのような方法で安全性を証明したかは記載がない。花粉の安全性を危惧するコメントに対し、■コメントに対する再返答*2にて、せと弘幸氏は、


ご存知ないようなのでお答えします。ミツバチが集めてくる花粉は欧米では古来から栄養食品として多くの人から愛用されていますよ。エジプトの古文書、コーラン、聖書にも昔から食べていたことが書かれてあり、花粉を食べて死んだ人などいないと思いますよ。

と答えている。花粉が多くの人に愛用されて死人が出なかったというのは根拠にならない*3。問題は、花粉をナノ化したものが安全かどうかだからだ。ナノ化しようが吸収される成分は変わらないので大丈夫というのであれば、わざわざナノ化する必要はない。安全と効果・効能は表裏一体であり、臨床試験を行なわない限り、「安全かつ効果がある」とは主張できない。まとめると、せと弘幸氏の科学の理解度は、週刊金曜日と同レベルということでどうか。個人的には、せと弘幸氏が売ろうとするナノ化食品には効果・効能も危険性もなかろうと思う。食感は変わるかもしれないが、食品を細かく砕いたところで、消化・吸収が多少早くなるぐらいであろう。もし本当に舌下からどんどん吸収されるのであれば、アレルギーの心配をすべきである。

コメント欄では、おそらく支持者の方々であろう人たちが、せと弘幸氏をたしなめている。すべての政治家が科学に通じているわけにもいかない。ブレーンがいればいいのだ。批判的なコメントをしている人たちは、せと弘幸氏の財産である。そういや、薬剤師のくせに新谷弘実の著作を鵜呑みにし、ナチュラリープラスなるマルチ商法の会員となっている民主党候補*4もいたけど、こちらはコメント欄を閉じている。せと弘幸氏のブログが同じことになりませんように。


*1:URL:http://blog.livedoor.jp/the_radical_right/archives/51617256.html

*2:URL:http://blog.livedoor.jp/the_radical_right/archives/51619137.html

*3:スギ花粉の経口摂取での健康被害はある

*4:URL:http://blog.goo.ne.jp/hatatomoko1966826/e/fea1c44de76dfb1e84f23a3106d40ea1