NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

インチキ糖尿病薬にだまされるのは患者を脅す医者が悪い

「頂門の一針」というメールマガジンを主催する、渡部亮次郎(元NHK記者)による記事。カイコの粉末に血糖値を抑える薬効があると宣伝して健康食品を販売した業者が薬事法違反で書類送検された記事を引用した後、


◆患者を脅す医者が悪い(NET MEDIA OSAKA)


これが、要するに「糖尿病怖い」に付け込んだ犯罪なのである。今後も似たような事件が多発することが間違いない。なぜならば、糖尿病は今のところ一旦かかったら絶対に治らず、一生付き合わなければならない病気。最後はインシュリンの注射を朝夕打たなければならなくなる。痛い!いやだ!其処を悪が狙う。

(中略)

一方、注射針を細くすることにも日夜取り組み、2007年3月の現在、注射針の外径(先端部)は僅か0.23ミリ。近くは0.2ミリになろうとしている。当に手先の器用な日本人を象徴するように世界一の細さ。全く痛みが無くなった。

ところが医者は患者を脅す。「あんた、食欲を抑え、散歩を沢山しないと、注射に頼ることになるよ、痛い目に遭うよ」。

食欲を押さえ、運動もしながら、どうしても血糖値上昇に悩む、悩める子羊の足元を見透かして、効き目のない怪しげな薬もどきを売りつける業者。売るほうも悪いが、患者を脅しつける医者がもっと悪い。


はああ、怪しげな薬もどきを売りつける業者よりも患者を脅しつける医者が悪いのですか、そうですか。今はインスリン注射はほとんど痛くないから、内服薬が効かなくなっても平気ですとでも説明すればいいのか?もちろん、インスリン導入が必要な患者さんにはインスリン注射はほとんど痛くないと説明はする。むしろ、「注射だけは嫌だ」と仰る患者さんをなだめすかして説得しなければならないくらいである。渡部亮次郎氏は「インスリン注射という痛い目にあう」という脅す医者を直接ご存知なのだろうか。初めから医師が悪いという先入観があり、架空の医師をでっちあげているだけではなかろうか。

それに、いくら痛くないとは言え、内服薬に比べると自己注射は生活の質を落とす。インスリン注射が不要であればそれに越したことはない。食事や運動療法でインスリン抜きでコントロール可能ならば、そのほうがいいに決まっている。また、渡部氏は自己注射をされていて慣れているのであろうが、世の中には自己注射の手技を覚えられない人、目が悪く目盛りを読み取れない人、職場で自己注射のための時間・スペースがとれない人などもいるのである。そうした医療の現場を知ってか知らずか、「患者を脅す医者が悪い」という主張はいかがなものか。

ちなみに、同じサイトに石岡荘十による◆地下鉄“AED”を3年で完備という記事に、


ところが日本ではつい最近まで、医師の資格を持っていない者にAEDを扱うことを許さなかった。「医師以外の触らせない」、それが医師会の主張だった。

とあったので、「むしろ医師たちはAEDを普及させようとしていた*1」とコメントしたが消されたようだ。トラックバックを送っても反映されないであろう。