通勤中に聞くラジオ番組で、毎週水曜日に医療のコーナーがあり、自称医療ジャーナリストが話をするのだが、今日は羅漢果(らかんか)の話であった。諸君らは羅漢果をご存知か。なんでも、中国の桂林で取れる果物だそうだ。ラジオでは、「砂糖の400倍の甘味を持つが、消化・吸収されない甘味成分のため、カロリーゼロで糖尿病予備軍の人などが使うとよい」と言っていた。「低カロリー」とかではなく、「カロリーゼロ」と確かに言った。
さて、砂糖の400倍かどうかはともかく、カロリー源にならない強い甘味成分を果物が持つことだってあるだろう。果物が甘いのはなぜか。至近要因から言うと、果糖などの糖類を含んでいるからである。我々動物の側から見ると、カロリー源となる糖類を甘く感じ、果物を好んで摂取することは利益になる。果物も、動物に摂取されることで種子を遠くまで運んでもらうという利益になり、これが究極要因からみた果物が甘い理由である。
ここで、より少ないコストで甘味成分をつくれる果物があったとしよう。その果物は、コストをかけて糖類をつくる「真面目な」ライバルの果物と比較して、浮いたコストでより多くの種子をつくることができ、繁殖に成功するであろう。いわば動物を「騙す」、「利己的な」果物と言える。その甘味成分が動物にとってカロリー源になるかどうかは問題ではない*1。
実際どうなのかを調べようと、Googleで「羅漢果」を検索してみたところ、予想されていたことではあるが、出るわ出るわ、業者の宣伝サイトばかりである。情報を総合するに、羅漢果の甘味成分は「テルペングリコシド配糖体」もしくは「トリテルペン配糖体」であるとのこと。宣伝サイトに原著論文など提示されていようはずもなく、元ネタは、主婦と生活社「羅漢果の凄い薬効」とかいう、タイトルだけで内容が推測できる凄い本のようである。
動物を「騙す」果物というのは興味深い仮説であるが、少なくとも羅漢果に関しては情報源があやふやであった。ちなみに、羅漢果はどのくらいのカロリーを含むのかについても調べてみた。常識的には、「テルペングリコシド配糖体」とやらを含むとは言え、果糖などの他の糖類をまったく含まないなどとは考えにくい。日本語版ウィキペディアの羅漢果の項には「羅漢果の甘味成分は、多くは葡萄糖と果糖であるが、特有の強い甘みをもつ成分としてモグロシド(あるいはモグロサイド)と呼ばれるトリテルペン配糖体を含む」とあった。「羅漢果の凄い薬効」の著者である森昭胤による論文*2にも「果糖を豊富に含有し」とある。だとすると、カロリーゼロではない。
宣伝サイトには、主婦と生活社「羅漢果の凄い薬効」からの孫引きと思われるが、日本食品分析センター試験成績書から羅漢果の成分表を引用してある。スーパーオキシド消去活性やら、総トコフェロール(ビタミンE)やらは書いてあるが、なぜかカロリーは書いていない。都合の悪い部分は引用していないのではないか。らかんか茶(羅漢果顆粒)の成分分析試験結果の原本*3を提示しているところもあったけど、エネルギー 398kcal/100gと書いてある。むろん、すべての炭水化物が消化・吸収されるという仮定の上での計算であろう。宣伝サイトは「らかんか茶は腸内で糖分が吸収されません。実際は、ほとんど「0」に近い数字です」*4と書いてあるが、ならば炭水化物のうち消化吸収されない成分がどのくらいであるか示すべきである。
結論。羅漢果そのもの、もしくは羅漢果茶はカロリーゼロではない。甘味の割りに低カロリーである可能性はあるが、どの程度かは不明である。in vitro(試験管内)でのフリーラジカル消去作用はあるが、臨床的意義は不明である。通常の漢方薬/生薬と同程度の効果は期待できるかもしれない。継続的な摂取は勧められない。個人的には、一度くらいは食べてみたいが。