NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

医療事故が起こったときのマスコミ対応法

患者さんが不幸にも亡くなってしまった場合、死亡確認をして、死亡診断書を書いた後、出棺となるわけだが、そのとき、「力及ばずこのような結果になってしまって申し訳ありません」などと言うことがある。「誰が診たって助からなかったよな」と思っていてもそう言う。で、遺族側は、「いいえ、最後までよく診てくださってありがとうございました。たいへんお世話になりました」などと答えるわけだ。色々不満があったとしてもわざわざ言わないであろう。一言で言えば日本的な社交辞令。もちろん、言うときは相手を選ぶ。医療不信の強い遺族にはわざわざ「申し訳ありません」などとは言わない。

私の診る疾患はほとんどが慢性的な経過をたどり、あらかじめ死期が予測できることが多い。そのため、家族に対して十分な説明の時間がとれ、よって上記のような社交辞令が成り立つわけである。しかし、産科や小児救急などの領域で、基本的には死なないはずの元気な患者さんが、家族に十分に説明のとれないまま不幸な転帰をとったケースでは、このような日本的な社交辞令は成り立たないであろう。ましてや家族ではなく、マスコミ相手に言質を取られるようなことは言うべきではない。


■転送拒否続き妊婦が死亡(中日新聞)


 大淀病院では、転送先を探す途中で内科医が脳の異常の可能性を指摘したが、主治医はコンピューター断層撮影装置(CT)にかけなかった。
 病院側は「妊婦を動かすことでかえって危険が増すと判断した。しかし結果的に判断ミスだった」と非を認めた。

非を認めたのは消化器外科の院長だそうだ。2ちゃんねるでは、「責任逃れのために主治医を後ろから撃った」などと言われている。しかし、私の考えでは、責任逃れというよりも、遺族に「申し訳ありません」と言うノリで言っちゃったのではなかろうか。消化器外科の院長は、主治医の判断がミスであったかどうかを判断できない。判断は、産婦人科の専門医にしかできない。大淀病院事件では、早々に奈良県の産婦人科医会が「主治医の判断や処置にミスはなかった」という結論を出している*1

事実、医療ミスがあったのなら、すみやかに謝罪するべきである。これは倫理的にもそうだし、倫理を抜きにして損得のみを考えた場合でもそうである。しかし、医療ミスがあったかどうか不明な場合には、特にマスコミの前では、医療側は安易に謝ってはならない。院長はマスコミの前でどう発言すべきであったか。模範解答を2ちゃんねるから引用。


不幸な結果になった患者さんには深く哀悼の意を捧げます。
事実関係は外部の専門家による調査委員会を作って徹底的に調査します。
その上で判明した問題は必ず改善していきたいと思います。

「調査の結果はすみやかに公表いたします」などを入れればなお良いか。調査の結果、医療ミスであったのなら改めて謝罪すればよい。