NATROMのブログ

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ドーキンスをシュウセイスル系

■ドーキンスはマチガッテイル系の続き。

南堂氏は、私による具体的な批判には一切反論できず、その代わり「[ドーキンス説を] 批判をしているのではなくて、拡張をしている*1」というコメントをした。「トンデモ」とまで言っておいて「批判はしていない」というのは言い訳にしてもかなりびっくりする部類に入る。アインシュタインがニュートン力学のことをトンデモと言っただろうか。

それに、ある学説を拡張するにしても、その学説を理解しておくべきである。南堂氏のたとえを借りると、フランス料理の仕方を知らないのに、フランス料理を拡張することはできない。フランス料理を作ったことはおろか、フランス料理の本すらまともに読んだこともないのに、「フランス料理はトンデモだ」などと主張し、反論されたら「フランス料理を否定していない。拡張しようとしているだけ」ってのはかなりトンデモだと思うぞ。

南堂氏は、ドーキンスを含めて現代の進化生物学を理解していない。ドーキンスを完璧だと思っている人は、南堂氏の脳内以外にはいないので、きちんとした拡張なら耳を傾けてもらえるだろう。ドーキンスの学説を理解した上できちんとした根拠をもとにすれば、批判だろうが否定だろうが耳を傾けてもらえる。しかし、南堂氏が行っている事の多くは、既存の進化生物学で説明できることを、「現代進化論では説明できない」と勘違いした挙句、独自の用語で分かりにくく言い直しているだけである。南堂氏の以下のたとえを例に説明しよう。



  比喩的に言えば、次のようになる。
 ハムエッグを作るには、ハムと卵の両方が必要だ。ただし、ハムはもともとある。足りないのは、卵だけだ。こういう状況があった。
 ここで、卵論者は、「ハムエッグを作るには卵が必要だ」と主張した。
 ところが南堂は、「卵論者は間違いだ。ハムエッグを作るにはハムと卵が必要だ」と主張した。
 すると、卵論者は、怒り狂った。「おれの言い分を否定するということは、ハムエッグには卵が必要でないということだな。しかし、ハムエッグに卵が必要でないと考えるなんて、トンデモだ!」
 彼らは、「卵だけ」というのを否定されたとき、「卵の必要性」を否定されたと勘違いする。
 ここには、論理的な錯誤がある。
 

現代の進化生物学はハムも卵も必要だと認めている。南堂氏はそんなことは理解できず、「卵論はトンデモだ。ハムエッグを作るには卵だけでなくハムも必要だ」などと主張したわけですな。そんで、「えー、誰がハムが必要でないなんて言ったの?」と突っ込んだら、南堂氏は怒り狂って、「卵論を批判なんかしていない。卵論を拡張しているだけだ」と言ったわけですな。南堂氏が反論するなら、とりあえず、「誰がハムが必要でないと言ったか」、つまり、たとえば、『現代の進化論は「遺伝子がすべてを決定する」と考える』とした根拠を述べてほしい。それ南堂氏の脳内進化論であって現代の進化論じゃありませんから。

これが「卵多すぎだろ」「コショウが足りない」「意外と唐辛子が合うんじゃね?」とかいう話だったらトンデモ呼ばわりはされないであろう。ていうか、プロの進化生物学者は学会ではそういう話をしているのだ。「ハムも必要」などという低次元の問題は既に通り過ぎている。学会と言えば、南堂氏はこんなことも言っている*2



学会誌というものは、既存の学会を発展させるためにあるのであって、既存の学会を全否定するためにあるのではありません。そんな論文は、ボツです。(「おまえらみんな間違っているぞ」と言われたら、誰だって、怒り狂うでしょう。)


クラス進化論が既存の進化論を全否定するのではなく、拡張しようとしているのなら、論文は没にならないだろうね。さて、論文を書かない別の言い訳キボンヌ。ユニークなやつを一つ頼むよ。ちなみに、このページでは「クラス進化論は自然淘汰説を否定している」って思いっきり書いているけど、否定じゃなくて「拡張」なんじゃなかったの?南堂氏は、「否定しているのは『すべてを自然淘汰だけで説明しようとする説』だ」と言い訳するかもしれんが、そんな「自然淘汰説」は木村資生もグールドも、ドーキンスすら、否定してんだけど。


*1:http://openblog.meblog.biz/article/41771.html

*2:http://hp.vector.co.jp/authors/VA011700/biology/class_08.htm