このごろの毎日新聞の医療関係記事は目が離せない。mixiの「【最終警告】本当は怖い健康情報」コミュニティ経由で、以下の記事を読んだ。
■ファイトケミカル:「第7の栄養素」 がん予防、アレルギー改善の力秘め*1
ファイト(phyto)=ギリシャ語で植物の意味とのこと。「アントシアニン、カテキン、大豆イソフラボンなどで、約1万種類あるといわれる」。こうした植物由来の微量栄養素が何らかの作用を持つというのは納得できる話である。もしかしたら、抗がん作用、抗アレルギー作用を有するものもあるかもしれない。探せばまともな研究もあるだろうに、この記事が紹介する「帝京大学薬学部教授の山崎正利さん」の研究は、もうびっくりするほどダメダメである。
◇白血球を増やし活性化
白血球は体内に侵入した異物やがん細胞、ウイルスなどを殺したり弱める働きがある。ファイトケミカルは、この白血球を増やし、活性化する力を持っている。
山崎さんはネズミに野菜汁を注射し、白血球の増減を調べる実験を行った。その結果、▽野菜はニンニクやシソ、タマネギ、ショウガ、キャベツ、長ネギ▽果物はリンゴ、キウイ、パイナップル、レモンなどが白血球数を増やすことが分かった。
また、キャベツやナス、ダイコン、ホウレンソウなどの野菜は、白血球に含まれるTNF(腫瘍壊死因子)を増やし、その濃度は抗がん剤やインターフェロンよりも高くなることが判明した=表参照。果物もバナナ、スイカ、パイナップル、ブドウなどが白血球を活性化する力があった。
山崎さんは「白血球を活性化することでがんはもちろん、高脂血症や動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病や肝臓病、アレルギー疾患にも効果が期待できる」と話す。
はい、どこから突っ込めばよいですか。mixiでは、経口と注射を一緒にしちゃう論理はすごいとか、白血球って単純に増えればいいものなのか、といったツッコミが入っていた。「抗ガン剤と同じような効果のある野菜は何か」というグラフ一つとっても、ツッコミどころはいくつもある。インターフェロンや抗ガン剤の濃度が不明である。抗ガン剤の種類が明示されていない。抗ガン剤といってもたくさん種類があるのだ。そもそも、抗ガン剤の作用機序は細胞分裂阻害にあって、TNF分泌にあるわけじゃない。TNFは炎症性サイトカインの一種であり、炎症が起こったときに分泌される。野菜汁といった異物を注射すれば、そりゃ炎症が起こってTNFも分泌されるだろう。たとえばブドウ球菌などを注射すれば、白血球は増えるしTNFもたくさん分泌される。グラフのタイトルは、「抗ガン剤と同じような副作用のある野菜は何か」のほうがふさわしい。
だいたい、臨床においては、TNF(腫瘍壊死因子:Tumor Necrosis Factor)は悪玉であり、おおむね少ないほうがいいものとされている。慢性関節リウマチにおいては、TNFは炎症を増強させ関節を破壊するため、TNFの働きを抑える薬があるくらいである。また、メタボリックシンドロームにおいては、TNFはインスリン抵抗性を増し、血管内皮細胞を障害するとされる。要するに、TNFはアレルギー性疾患や糖尿病や動脈硬化を悪化させるのだ*2。無論、TNFは感染防御等のプラスの働きも持っているが、いまどき、TNFを増やすから「高脂血症や動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病や肝臓病、アレルギー疾患にも効果が期待できる」とは無知にもほどがある。
野菜・果物をもっと食べましょうという結論は賛成するが、その途中がいけない。ゲームのやりすぎが良くないという結論を導くのに、ゲーム脳というトンデモを持ち出してくるのに似ている。そういや、最初にゲーム脳を紹介した大手マスコミは毎日新聞だったっけ。毎日新聞はゲーム脳から何も教訓を得ていない。記者が基本的な医学知識を持っていないのは仕方がないにせよ(野菜汁を注射するという異常な実験に疑問ぐらいは持ってほしいが)、記事にする前に複数の専門家から意見をもらうことぐらいはしてもよいのではないか。でないと、今後も、「自称」専門家の話を科学知識ゼロの記者が鵜呑みにして、トンデモ説があたかも「肯定された説」であるかのように書かれた記事は減らないだろう。