衛生仮説とは、簡単に言えば、過度に衛生的な環境がアレルギー性疾患のリスクを増やすという話。こちらの先生は衛生仮説に批判的である。
■衛生仮説はガセネタだろう?!(Dr Blue)
衛生仮説というのをご存知だろうか?これが今のアレルギーの話しでトレンドである。しかも、この類いの話しで本を書いて儲けている医学者が居る。曰く、今はあまりにも清潔なので、かえってアレルギーが増える。小さい時に寄生虫に寄生されたり、沢山の感染症にかかることで免疫反応が正常化して過敏症やアレルギーは減るという仮説。だからあまりにクリーンな環境だからこそアレルギーや過敏症が増えるといもの。
私はこれは怪しげだと思っている。確かにそのような要因がある可能性は否定できない。しかし、あまりにもクリーンだからアレルギーや過敏症が増えるというのは直感的に信じられない。感染症をコントロールすることで如何に病気が減ったか?という事実を無視している。今の日本にはリウマチ熱による心臓弁膜症はほとんど見られない。でも今でも東南アジアでは心臓手術では心臓弁膜症が大きな比重を占めている。リウマチ熱は溶レン菌感染の制御でその障害を防ぐことができる。
Dr.Buleとは逆に、クリーンな環境がアレルギー性疾患を増やすという話は直感的に正しいと私には思われる。ヒトは数百万年ものあいだ不潔な環境下で進化してきたのだ。ヒトの免疫系は不潔な環境に対してチューンアップされているのであって、過度に衛生的な環境下で不具合を起こすというのはありそうな話である。飢餓に対して適応的であった遺伝子(節約遺伝子:thrifty gene)が、食べ物が十分にあるという現在の環境下で、糖尿病や肥満といった不具合を引き起こすという話と同じだ。
感染症をコントロールすることで病気が減ったという話は衛生仮説の妥当性とは無関係である。衛生仮説を支持しようがすまいが、まともな医学者であれば、衛生的な環境が病気を減らし、公共の福祉を向上させたことを否定しないだろう。熱心な衛生仮説支持者であっても、現在のクリーンな環境で得られるメリットがデメリットを上回ることに同意することはありえる。ていうか、たいていは同意すると思う。「アレルギー疾患を減らすために前近代的な不衛生な環境に戻すべきだ!」などと主張している人がもしかしたらいるかもしれないが、それはただ単にその人がアレなだけで、衛生仮説がガセネタということにはならない。
Dr.Buleは、寄生虫を駆除してもアトピーは増えなかったとするランセット誌の論文を引き合いに出す。
このスタディは、CRTで行われた。エクアドルの68小学校で2グループにわけて、34校は寄生虫駆除薬を投与して、34校は投与しなかった。前者は1164名の児童で、後者は1209名の児童。前者には2ヶ月おきに1年間寄生虫駆除薬を投与して1年後にアトピーの出現率を比較したが差はなかった。
もちろん、これだけで衛生仮説を完全に否定は出来ないだろうが、衛生仮説を積極的に支持するデータはない。「衛生仮説」で本をお書きになって儲けている医学者さんはどうもガセネタで儲けているようだな、、、。ヨーグルトが喘息 にいいとか、、、いやはや。
このスタディだけで衛生仮説を完全に否定は出来ないというのは正しい。寄生虫が感染するような不衛生な環境がアトピー性疾患に防御的に働くのであれば、寄生虫だけ駆除しても不衛生な環境がそのままならアトピー性疾患は増えない。寄生虫だけでアトピー性疾患を防御できると主張するアレな人(具体的には藤田紘一郎センセイ)は存在するので、そうした主張に釘を刺しておくのは有意義なことであろう。ヨーグルトが喘息にいいという話については、効果があったとするRCT(無作為対照試験:randomized controlled trial)が実はあったりする*1ので一概には言えないが、もしかしたら過大にヨーグルトの効果を宣伝して儲けている医学者もいるかもしれない。でもそれも、衛生仮説がガセかどうかという話とは別問題。
先進諸国においてアレルギー性疾患が増えているのはまぎれもない事実である。おそらくは複合的な要因が関与しており、答えは一つではないのだろうが、現在のところ、もっとも根拠がある説明が衛生仮説である。水道水や排気ガスや農薬や電磁波や食物添加物やその他諸々の「化学物質」が原因であるとしばしば主張されるが、衛生仮説ほどの根拠はない。アトピー性疾患の原因を「化学物質」に求める人々は、「化学物質」の「不自然さ」を批判するが、これまでヒトが経験したことのなかったほどの衛生的な環境こそが「不自然」であることに気付いていない。Dr.Buleが「衛生仮説論者は現代文明批判を含めてしたり顔で行う」と書いたのが私には興味深かった。なぜなら、衛生仮説こそが根拠なく「化学物質」にアトピー性疾患の原因を求める薄っぺらい現代文明批判に対する論理的な反論になりうると私は考えているからだ。
*1:Kalliomaki et.al. Probiotics in primary prevention of atopic disease: a randomised placebo-controlled trial. Lancet. 2001 Apr 7;357(9262):1076-9.