NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

子供っぽい毎日新聞の社説

■マスコミ 専門家の意見を無視する子供っぽさ(内科開業医のお勉強日記)経由で、毎日新聞の香ばしい社説を発見。ニコチン依存症管理料が保険適用されることを受けた記事。これを書いた北村龍行記者によれば、ニコチン依存症を病気扱いするのは、「正義のためなら人を傷つけてもいいと考える子供にも似て、社会的成熟に欠ける」のだそうだ。


■社説:視点 禁煙治療 依存症の軽重無視する子供っぽさ


 「依存症」はどうだろう。離脱症状や禁断症状はあるが、禁煙社会化するなかで喫煙者はすでに、可能な時と場所でしか喫煙しなくなっている。離脱・禁断症状は喫煙者によって克服されている。
 ニコチンは依存症を生む。しかし、それが本人あるいは周囲に及ぼす影響は、アルコールや他の薬物に比べて明らかに低い。喫煙率が下がり続けているが、非喫煙者と禁煙者の増加によるものだ。禁煙者の増加自体が、たばこの依存症が重くないことを証明する。さらに、たばこの害は科学的に証明されていると主張するなら、たばこの販売自体の禁止を主張すべきだろう。依存症だからといって、影響の軽重も考えずに病気扱いするのは、正義のためなら人を傷つけてもいいと考える子供にも似て、社会的成熟に欠ける。
 かつて喫煙者が、間接喫煙被害者の苦痛に鈍感であったことは事実だ。しかし、すべての喫煙者を医師の診療なくして禁煙できない人とみなして病人扱いする風潮には、かつての喫煙者の鈍感さに通じるものがある。

言いたいことは概ね■内科開業医のお勉強日記で言われている。私の個人的な意見は、たばこに害があったとしても、成人が害を知らされた上で、喫煙するという選択をするのは別にかまわないと思う。相当の社会的コストを負担して、かつ、他人に迷惑をかけないのであればの話だが。また、喫煙を止めたいという希望に対して公的な補助を行うのも、本人のみならず社会の利益になる。何も喫煙者に対して強制的に禁煙させるわけでもあるまいし、禁煙を希望する人に対して補助するのが、いったいなんで「正義のためなら人を傷つけてもいいと考える子供にも似て、社会的成熟に欠ける」ことになるのだろうか。「すべての喫煙者を医師の診療なくして禁煙できない人とみなして病人扱いする」というのも事実誤認つうか被害妄想。医師の診療なしに禁煙できる人もいれば、禁煙できない人もいるってだけだろう。

これだけで十分笑えるのだが、さらに凄いのは、つい4日前の毎日新聞で、以下のような社説が掲載されてたことだ(こちらはまとも)。


■社説:視点 禁煙治療 たばこ依存症は病気だ=論説委員・稲葉康生


 ニコチン依存症はアルコール依存症に比べて軽く、病気ではないという意見もある。喫煙家の気持ちも分からないわけではないが、その主張に説得力はない。政府が04年に批准した「たばこ規制枠組み条約」は、喫煙やたばこの煙により死亡、疾病、障害を引き起こすことは科学的証拠により証明されていると指摘している。
 さらに日本呼吸器学会、日本循環器学会、日本肺癌(はいがん)学会など9学会は04年度にまとめた報告書で、たばこを吸うことによりニコチン依存症と関連疾患からなる「喫煙病」を引き起こすとし、喫煙者には「積極的な禁煙治療が必要」と結論付けている。
 アルコール依存症の治療にはすでに保険が適用されており、ニコチン依存症もそれに合わせるのが時代の流れだ。禁煙指導が確実な効果を上げることを期待したい。

北村龍行記者の気持ちも分からないわけではないが、その主張に説得力はない。とか言ってみたり。