NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

痛くない注射の技術

いつも私が読んでるブログで、アレルギー検査のための採血を小児科でされたが痛くなかったという話が書かれていた。

■アレルギーもろもろ(学芸のためなら女房も・・・)


で、スズメバチ・アシナガバチ・ミツバチの3点セットを検査することになって採血。それにつけても、小児科の看護師さんは注射がうまいというか、ぜんぜん痛くないのだ。毎日泣き叫ばれちゃあ、そういう技術も発達するのか。注射は小児科に限る。

「注射が痛くなくなったのは、針を作る技術の進歩によるものだ」「やっぱり『痛い』看護師さんはいる」といったコメントがついている。で、どうなんだろう?技術によって、痛かったり痛くなかったりするってことはあるんだろうか?単なる注射ではなく、血管に刺す場合、技術の差はある。細い血管に確実に針を刺して採血を行うのは技術を要する。下手な研修医に採血された日には、何度も針を刺される羽目になる。子供の血管は細いので、小児科の看護師はそういった技術は持っているだろう。しかし、なるべく痛くないように針を刺す技術ってあるのだろうか。

肘からよりも手甲からのほうが痛いとか、アルコールで消毒後乾かないうちに刺すと痛いとかは聞く。痛みの感じ方には精神的な影響があるので、落ち着いたベテランより、いかにも新人という人に刺されるほうが痛みを感じやすいということはあるだろう。会話しながら気をそらしてサッと刺す看護師もいる。そういう精神的な要素は抜きで、針の挿入位置とか角度とか速度とかで、痛まないような刺し方はあるのか。私が知らないだけで、ベテランの看護師はそういう技術を体得しているのか。

体感としては、同じ採血でも痛いときと痛くないときとあるのは確かだ。ただ、技術の差がわかるほどは刺されていない。誰が刺そうと関係なく、痛いときと痛くないときがあるのだと思っていた。原理的には、ブラインド条件下で複数の人から何度も刺されるという実験を繰り返せば、技術による痛みの差があるかどうか証明できる。そんなに差はないだろうというのが私の予測だけど、誰もこんな実験はしないだろうな。ちなみに、『痛くない』と思えば痛み軽くという研究はあるそうだ。こんなん当たり前だと思うのだが、その当たり前だということをきちんと証明したのが偉い。

刺されるほうは、痛くないと思い込むほうが得だ。最近の針は技術の進歩で痛くなくなったと思い込もう。刺すほうは、患者さんに痛くないと思わせる努力をすべきだろう。私の失敗例だが、肝臓から組織をとる検査で肝生検というものがあるのだけど、最初に局所麻酔をする。痛いのはそのときだけだ。で、患者さんには麻酔に使う針を見せて、「採血に使う針より細いぐらいです。だから、採血よりは痛くありません」と説明していたのだが、あるとき、「針が長いから怖かった」と言われた。肝表面に達する針なので、採血の針よりかなり長い針を使う。刺される痛さは針の太さによるから、細い針を見せることで患者さんは安心するだろうというのがこちらの勝手な思い込みだった。それからは針を見せないように、言葉だけで説明するようにしている。