■アレルギー:母親の食事が子に影響 成育医療センター調査(毎日新聞)*1
授乳中の母親が卵や牛乳を多く摂取するほど子供に卵・牛乳アレルギーが少なく、アトピー性皮膚炎は、揚げ物など油脂を多く含む食品を多く食べた母親の子供ほど少ないことが、国立成育医療センター研究所(東京都世田谷区)の疫学調査で分かった。盛岡市で開催中の日本アレルギー学会で22日に発表する。
同研究所の松本健治・アレルギー研究室長らは1月、広島市内の小学2年生全員の保護者にアンケートし、9975人(有効回答率89.4%)から回答を得た。うち、粉ミルクなどを飲まず母乳だけで育った子供約3600人について、授乳中の母親の食事と、子供のアレルギー発症歴の関係を調べた。
授乳中に母親が卵を食べていなかった子は74人で、約26%(19人)に卵アレルギーと診断された経験があった。一方、卵を食べていた母親の子3528人のうち、卵アレルギー歴のある子は7.4%(262人)で約4分の1にとどまった。しかも「たまに食べた」母の子の率が約10%だったのに「毎日食べた」母の子は約5%で多く食べるほど率が下がっていた。
牛乳アレルギーでは、授乳中に牛乳を飲んでいた母の子の発症経験率は約2%で、飲まない母の子の半分以下だった。
アトピー性皮膚炎については、揚げ物、スナック類、ファストフードを、どれも授乳中に全く食べなかった母の子の発症経験率が約25%だったのに、少しでも食べていた母の子は、約18%にとどまった。
掲示板で既に、うに@猫女房さん(投稿日:10月23日(日)23時31分25秒)が「アレルギーになりやすい子やアレルギーと診断された子のハハオヤは乳・卵を控えがちであると考えたほうがしっくりくる」と指摘しているが、まったくその通りで、上記の記事からは、授乳中の母親の食事と子のアレルギーの相関関係はわかっても、因果関係はわからない。もしかしたら、アレルギーのリスクのある子の母親が卵や牛乳を避けているだけなのかもしれない。母親自身や子の兄・姉がアレルギーであった場合は、そうでない場合と比較して、母親は卵や牛乳を避ける傾向にあるだろう。
ただ、アンケートの結果を解析するときに、家族歴等の交絡因子の影響を統計学的な手法で取り除くことはできる。国立成育医療センター研究所のサイトを読むと、「家族歴,性別や年長の兄弟数など」は交絡因子として考慮してある。よって、単純に家族歴のある母親が卵・牛乳を避けるから上記のような結果になったとは言えない。しかし、未知の交絡因子の影響を取り除くことはできないので、厳密に除去食の効果をみるためには、ランダム化対照試験(RCT:Randomized Controlled Trial)が必要である。他の条件(母乳/人工乳、アレルギーの家族歴、受動喫煙などの環境要因等々)をそろえた集団を、ランダムにふたつの集団にわけて、一方の母親には除去食を、もう一方の集団の母親には普通の食事をとってもらう。その上で、子のアレルギー性疾患の発症率に差があるかどうかを見るのだ。こうした研究は困難が多い。毎日新聞の記事にあるような研究も意味がないわけではなく、予備的な研究としては十分に役に立つ。とはいえ、一般向けに報道するのであれば、研究はいまだ予備的なものであることを明示するべきだろう。国立成育医療センター研究所のサイトでは、下線の強調つきで、以下のような記述がなされている。
今回の結果はあくまでもアンケート調査によるものです.したがって、今後、介入試験が必要となります.つまり、妊婦に過酸化脂質を過剰に摂取してもらい、将来、児のアトピー性皮膚炎発症に対して有効かどうか,そして母親が授乳中に卵を摂取すると、その後の児の卵アレルギーの比率が下がるのかどうか、長期的に検討していく必要があります.
これまでわかっている除去食の効果については、■食物アレルゲン除去食療法 一般向けQ&A(九州大学医学部 皮膚科学教室)がよくまとまっている。妊娠中の除去食は明らかなアレルギー発症予防効果なし。授乳中の母親の除去食によるアトピー性皮膚炎発症予防については、意見が分かれる、といったところ。厚生労働省でも同じような結論であった。
*1:URL:http://www.mainichi-msn.co.jp/science/kagaku/news/20051022k0000e040062000c.html