NATROMのブログ

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進化と創造主義特集号

■生物科学Volume 56,No.1。買っちゃった。昨年の12月に、アメリカの公教育における進化論教育について考える研究会が行われたのだが(参考)、そのときのEugenie C. Scott(ユージニー・C・スコット)博士による講演の翻訳が読める。ある程度の知識がある人たち相手なので、そもそも創造科学は科学か?という話はほとんどなく(そんなことはみんな分かっている)、創造科学やインテリジェント・デザイン説といった説がいったいどうしてアメリカ合衆国で問題になっているのかという視点から話がなされている。自然科学上の問題ではなく、社会的・政治的な問題なのだ。

日本語でアメリカ合衆国における進化論論争について書かれた本は、「進化論を拒む人々―現代カリフォルニアの創造論運動」、鵜浦裕著がある。やや内容が古くなっていると思うが、この問題に関して興味があれば読んでおくべきだろう。今回、スコット博士を招聘したのが鵜浦裕(文京学院大教授)とのこと。鵜浦裕は「スコット講演の補足」として、「創造論運動の時期区分,戦略,人口統計,要因」を書いている。

進化論と創造論の掲示板で研究会の告知をしていただいた佐倉統も、「創造論・進化論・科学コミュニケーション―スコット講演へのコメント―」を書いている。「社会と専門研究とのコミュニケーション」の重要性を考えるうえで、日本の現況はやや遅れていると前置きした上で、


このような状況下で、「何も言わなくても社会が注目してくれる」進化論は、むしろきわめて好都合な条件を兼ね備えていると考えてもいいのではないだろうか。もちろんこの特徴は諸刃の剣で、科学的にねじれた反応が社会から返ってくれば、創造論のような科学的に不正確な運動が増幅してしまうことになる。しかし、中学生や高校生、その他専門家ではない人々に簡単にコミュニケーションできる材料をもちながら、安易な社会化は害が大きいとして、みすみすその回路を閉じてしまうのは、なんとももったいないと思うのだ。
と書いている。なるほど。佐倉統はNHKの番組(サイエンスアイ)でコメンテイターをしていたりするのだ。瀬戸口明久が「日本における進化論の導入―「受容」vs.「抵抗」モデルを超えて―」を書いている。たとえば、進化論と皇国史観の対立(天皇は天照大神の子孫なの?それともサルの子孫?)については面白く読めた。

1400円+送料60円(リンク先には値段が書いていないのはなぜ?)。進化論と創造論関係の記事は30ページくらい。あとは「世界のザリガニ類の系統と進化」などのマニアックな記事。三中信宏による書評は面白かったけど、内容が難しいです。いったい何冊ぐらい売れているんだろう、こういう雑誌。