NATROMのブログ

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医者の権益保護?

JAMA日本語版 2004年10月号の、第54回日本アレルギー学会総会 会長 秋山一男(国立病院機構相模原病院臨床研究センター)のインタービュー記事より。


それからアナフィラキシーショックの補助治療として、エピネフリンの自己注射を普及させることも学会の使命だと考えています。昨年ようやく大人のハチ毒によるアナフィラキシーショックに対しては、補助治療として自己注射が認められました。しかし、海外では、大人だけでなく子供に対しても、また食物によるアナフィラキシーショックに対する自己注射が認められています。注射を打つタイミングや法整備などの問題がありますが、学会としては小児への適用拡大と、食物によるアナフィラキシーショックへの自己注射も認めてもらうための活動を展開しています。(P13)
メモ。どうしてメモするかっていうと、「エピネフリンの自己注射を認めない医師はケシカラン!権益を守ることばかり考えて患者を無視している!」とか言う人がときたまいるから。権益を守るために反対している医師など、おそらくいない。エピネフリン自己注射が安全にできるのであれば、反対する理由などない。承認が遅いとかそういう文句はお役人さんに言わないと。ただ、子供や食物アレルギーに対していまだ承認されていない理由も、お役人さんの立場に立ってみれば容易に理解できる。承認後にもし事故でも起きれば、「安易に危険なエピネフリンの自己注射を認めた厚生労働省はケシカラン!製薬会社から賄賂をもらっているんだろ!」とか言う人がいるという罠。迂遠なようでも、きちんと手続きを踏んでから承認しないといけない。

「自己注射を認めないのはケシカラン!」の元テキストはどこに行っちゃったか見つけられないけれど、AED(自動体外式除細動器)についても、似たような構図があった。


■P氏のコラム


国内・医療「くたばれ医師会」
救急救命士、という職業はみんな知っているだろう。そこで問題になっている最近の問題として、緊急の心停止の処置である「除細動」が肝要。しかし気道確保と共に、救命士には単独で行う権限がない。専門家たる医者大先生の指示がないとできないとの決まり。そこまで難しい技術でもない。ってゆーか、心停止していまえば、1秒の遅れが命に関わる。そんな中、医者大先生に連絡をとらねばならない。当然利権、医者の権限は、これっぽっちも他に渡したくないとゆー、最低な発想の産物だ。当然この時点でむかついていたが、先日WBSで衝撃を受けた。飛行機内でスチュワーデス等がAED(自動除細動機)の訓練をしている話だった。彼女曰く「すべて電子音声で支持されるのでとても簡単ですね」とのこと。ほんと簡単なんだろう。スチュワーデスには許可されているらしい。おいおい、救命士よりもスチュワーデスの方が救命の専門家なのか?ほんと、医師会をどーにかぶっ潰せないもんだろーか。

日本循環器学会では、平成13年3月にAED検討委員会を設立し、広く非医師による除細動を可能にすることを目指して、検討を開始していた(循環器の診断と治療に関するガイドライン、2001-2002年度合同研究班報告)。三田村秀雄AED検討委員長は、2002年に厚生労働相にAED普及への提言を提出している(参考:■素人でも安全に使える自動体外式除細動器(AED)〜非医師への導入実施に向けて〜)。医師は別にAEDの普及に反対していない。ていうか、むしろ普及するように努力をしている(それとも、「医師会」と日本循環器学会で意見の対立があるとでも考えているのだろうか?)。

上記引用したP氏のコラムは、ありがちだけど誤った医師に対する偏見(及び医療に関する無知)に基づいて書かれている。除細動は侵襲的な治療である。信頼できるAEDが開発されるまでは、心電図を読んで除細動の適応があるかどうかを判断する必要があったのだ。「そこまで難しい技術でもない」というのはコラムの筆者の想像の産物だ。私は、ちまたの医師への偏見に関して医師側にまったく責任がないと言っているわけではなく、医師側に問題がまったくないと言っているわけでもなく、ただ、もうちょっと目を開いて欲しいというだけ。こーゆー偏見はトンデモさんに限られるわけでもない。環境問題に関してはとても信頼できるC先生まで「医者の権益保護のためだ」とか言っていて、すごく悲しかったナリ。