NATROMのブログ

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スティーヴン・ウェッブ著。松浦俊輔訳。原著は2002年。やっと読み終えた。これだけの本を書くのには、著者の専門である物理学だけでなく、進化生物学、社会学、数学、言語学などの幅広い分野の知識が必要であったろう。なにより必要なのはSFの知識かもしれない。原題は"If the Universe Is Teeming with Aliens... Where Is Everybody? Fifty Solutions to Fermi's Paradox and the Problem of Extraterrestrial Life"。長いタイトルだけど、amazon.comで表紙(カッコイイよ)を見る限りでは、"Where Is Everybody?"の部分が主題といえる。「いったいみんなどこにいるのだろう?」

「みんな」とはエイリアン、より正確には、ETC(extraterrestrial civilization:地球外文明)のことである。もし地球が、我々の考えたがる程特別なところではなかったとしたら、地球以外にも、生物が進化しうるだけの条件を満たした惑星があっただろう。その中のすべてではないにしろ、いくつかは文明を築いた惑星もあっただろう。天文学的な時間のスケールから見れば、そうした文明はあっという間に銀河系内に広がるはずだ。当然、地球にも来ていてもおかしくない。地球のような片田舎にわざわざ来ないとしても、彼らから我々へ向けての通信や、彼ら同士の通信を傍受できたっていいはずではないか。ところが、耳を傾けてみても、彼らからの声は聞こえない。宇宙は沈黙している。いったいみんなどこにいるんだろう?

この疑問は、エンリコ・フェルミが問うたとされている。「フェルミのパラドックス」とは、銀河系には地球に先行するETCが存在したっていいはずなのに、実際にはETCを観察できないという点でパラドックスである。考えたらすぐにわかるように、フェルミのパラドックスは、いくつかの仮定のもとに成立している。どの仮定を疑うかによって、パラドックスの解答が得られる。著者のウェッブは「実は来ている」「存在するがまだ連絡がない」「存在しない」の3つに分類して、49の解を紹介し、最後に自分の解答を述べている。もちろん、どれが正解かはわからない。