がん検診の文脈において、過剰診断の定義は「治療しなくても症状を起こしたり、死亡の原因になったりしない病気を診断すること」である(細かいマニアックな範囲内での定義の揺れはある*1)。定義上、死亡の原因となる病気を診断することは過剰診断ではない。がん検診における過剰診断について話をしたいのであれば、この定義ぐらいは押さえておかねばならない。しかし、ずっと以前より、主に福島県の甲状腺がん検診について議論しているnagayaさんは、この基本すらいまだにご理解していない。
過剰診断は
— nagaya (@nagaya2013) 2017年3月11日
A.生涯無症状のガンを診断する
(患者の余命よりガンの進行が遅い)
B.死亡率に影響を及ぼさない診断
(自発受診後で間に合う、もしくは進行が速く検査が無駄)
被曝起因の多発でももちろん過剰診断は起こりえます。
「過剰診断であるから多発ではない」のはAの場合だけです。 https://t.co/H21rRFx5a7
「A.生涯無症状のガンを診断する」のほうは問題ない。しかし、「B.死亡率に影響を及ぼさない診断(自発受診後で間に合う、もしくは進行が速く検査が無駄)」のほうは間違いである。この間違いは、nagayaさんが、がん検診の疫学について学ばす、勧められても教科書すら読まず、自己流で見当違いの情報収集をしているからだと考える。
「死亡率に影響を及ぼさない診断(自発受診後で間に合う、もしくは進行が速く検査が無駄)」を過剰診断とみなすならば、たとえば、死亡率を改善させない卵巣がん検診(■卵巣がん検診は卵巣がんによる死亡を減らさない)で発見された卵巣がんは過剰診断ということになってしまう。がん検診の文脈において、そのような意味で過剰診断という用語を使用している専門家は存在しない。
正しい過剰診断の定義に基づくと、卵巣がん検診における過剰診断は、検診群と対照群における罹患率の差の部分である(■卵巣がん検診における過剰診断はどれくらい?)。紹介した事例では、卵巣がん検診は卵巣がん死亡率を減らさなかった一方で、卵巣がんの罹患率を増やす傾向にあった。なぜ検診群で卵巣がんの罹患が増えたのか?それは「治療しなくても症状を起こしたり、死亡の原因になったりしない病気を診断」してしまったからである。検診群と対照群のほぼ同数を比較して検診群で卵巣がんが212例、対照群で176例であったわけだから、その差の36例が過剰診断である*2。
nagayaさんによる「死亡率に影響を及ぼさない診断(自発受診後で間に合う、もしくは進行が速く検査が無駄)」も過剰診断としてしまうと、たとえば、偶発的に発見された進行膵臓がんも過剰診断ということになってしまう。がん検診の疫学について不慣れな人であっても、このような例を過剰診断としてしまうのは不合理であることをご理解できるであろう。nagayaさんに質問する。
「自発受診後で間に合う、もしくは進行が速く検査が無駄」という例を過剰診断とみなしている論文はありますか?
私は一例も知らない。というか、nagayaさんは、論文どころか、日本語で書かれた教科書すら読んでいないであろう。
2022年3月11日追記。nagayaさんが過剰診断の定義を理解していないことを示す別のツイート。
過剰診断は「自覚症状があるまで発見しなくてよいガンを診断すること」とも定義できます。具体的には「進行が遅く、もしくは余命が短く生涯自覚症状に至らない」場合と「自覚症状後でも(もしくは早期発見しても)死亡の変化がない場合」です。後者に絶対リスクを加味したものが検診有効性の評価です。
— nagaya (@nagaya2013) May 5, 2019
「自覚症状後でも(もしくは早期発見しても)死亡の変化がない場合」は過剰診断ではありません。nagayaさんが過剰診断の定義の問題と、がん検診の有効性の問題を混同していることから、こうした誤解が生まれているのでしょう。
*1:https://twitter.com/NATROM/status/1502109370444029952
*2:測定誤差やキャッチアップされていない分の誤差はある