NATROMのブログ

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過剰診断に関する誤解

過剰診断に関する誤解は広く見られる。誤解の実例の収集、および、誤解の訂正を試みることは無駄ではないだろう。とりあえず仮の置き場であって、誤解している人たちに向けた詳細な説明ではない。



●誤解:ガイドラインに照らせば手術適応である。よって過剰診断ではない。
●事実:手術適応だからといって過剰診断ではない、とは言えない。無症状で発見されたがんにおいて手術適応の症例の中には一定の割合で過剰診断が含まれる。

 

●誤解:病理診断や進行度など症例を詳しく検討しなければ過剰診断かどうか判断できない。

●事実:症例を詳しく検討しなくても疫学データより過剰診断かどうか判断は可能である。一方、症例を詳しく検討しても過剰診断かどうかは判断できない。

 

●誤解:韓国の成人の甲状腺がん検診で過剰診断が起こったのは、小さくて手術適応でないものまで手術してしまったからである。
●事実:韓国の成人の甲状腺がん検診において、小さいものまで手術してしまったことは過剰診断の害を増やした一因に過ぎない。リンパ節転移があったり、腫瘍径が大きいものも検診で発見され治療介入されたが、甲状腺がんによる死亡率は変化しなかった。

 

●誤解:腫瘍径1cm以下でリンパ節転移のないものを診断することが過剰診断である。
●事実:腫瘍径1cm以下でリンパ節転移がなくても、将来症状を引き起こしたり、死亡の原因になったりするものは過剰診断ではない。また、腫瘍径1cm以上もしくはリンパ節転移があるもので、将来症状を引き起こしたり、死亡の原因になったりしないものは過剰診断である。

 

●誤解:遠隔転移があるものは過剰診断ではない。
●事実:遠隔転移があっても、将来症状を引き起こしたり、死亡の原因になったりしないものは過剰診断である。

 

●誤解:小児甲状腺がんの予後がいいのは治療をしたからだ。治療をしなければ予後が悪い。だから小児に対する検診は有効である。
●事実:治療をしなければ予後が悪いとしても検診の有効性とは無関係である。検診をしなくても症状が出た時点で診断され、治療されるからだ。症状が出現してから治療をしても予後がいいがんは、検診から期待できる利益は相対的に小さい。

 

●誤解:甲状腺がん検診は、がん死亡率を減らすことはできなくても、拡大手術や再発を防ぐことで生活の質(QOL)を改善させることはできる。
●事実:甲状腺がん検診が拡大手術や再発を減らしたり、QOLを改善させたりできるというエビデンスは、ランダム化比較試験はおろか、コホート研究や症例対照研究といった観察研究のレベルですら、存在しない。一方、検診が短期的にはQOLを悪化させることは明確である。