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アメリカ合衆国における甲状腺異常の自然経過。若年者における甲状腺疾患の有病割合、罹患率および退縮

UpToDateの記載*1からは、■アメリカ合衆国における甲状腺結節の20年後のフォローアップ調査であるらしい。「らしい」というのは、微妙に人数とか合わないから。本文を読めばわかると思うが…。論文書いた人は同じ。


■Natural Natural history of thyroid abnormalities: prevalence, incidence, and regression of thyroid diseases in adolescents and young adults. [Am J Med. 1991] - PubMed - NCBI Rallison MLほか。


サマリーだけ読んだ。1991年アメリカ合衆国。以下は私が重要と思われるところだけを訳した。

1965年から1968年にかけて4819人の児童を対象に甲状腺異常のための検査が施行された。そのうち、3分の2である3121人が20年後(1985年から1986年にかけて)に再検査を受けた。

最初の検査(1965年〜1968年)では、185人(3.7%)の甲状腺異常が発見された。思春期甲状腺腫は千人対19.3人、慢性リンパ性甲状腺炎は千人対12.7人、甲状腺小結節"thyroid nodules" は千人対4.6人であった。甲状腺小結節には2人の乳頭癌を含む。甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症は千人対1.9人に見つかった。

1985年から1986年のフォローアップ検査では、298人(10.5%)*2の甲状腺異常が発見された。298人のうち、81人が単純性甲状腺腫(千対28.7人)、145人が慢性甲状腺炎(千対51.3人)、45人が甲状腺機能低下症(千対15.9人)、11人が甲状腺機能亢進症(千対3.9人)、66人が小結節(千対23.2人)であった。小結節は10人の癌を含む。

最初の検査(1965年〜1968年)で甲状腺小結節"thyroid nodules"があった22人のうち、2人は完全に結節が消失した。3人は正常範囲内の変異"variants of normal"と考えられた。残りはさまざまな結節性病変状態であった。

ここからが私の解釈。この論文が■アメリカ合衆国における甲状腺結節の20年後のフォローアップ調査だとして、5179人だった調査対象が4819人に減っているのが少しだけ気になる。

そんでもって1975年の論文では甲状腺の"nodularity"が98人との記載があるのに対し、1991年の論文では「最初の検査(1965年〜1968年)で甲状腺小結節"thyroid nodules"があった」のは22人*3とある。脱落は3分1程度であるので、いくらなんでも違いすぎる。これは"nodularity"と"thyroid nodules"が異なるものであるからだと思う。前回、「"nodularity"は、甲状腺小結節よりも広い概念(goiterやthyroiditisを含む)である模様」と書いた理由がこれである。

UpToDateには"In a study conducted in the southwestern United States, thyroid nodules detectable by palpation were present in 1.8 percent of school children between the ages of 11 and 18 years [1]."とあるが、1.8%であったのは、"nodularity"であって、"thyroid nodules"ではないと思う。

また、"In a follow-up study 20 years later, nodules were present in only 0.45 percent of the same subjects, showing that nodules disappeared in 75 percent of subjects [2]."と記載があるが、その根拠はサマリーを読むだけではわからない。本文に書いてあるのだろうか。サマリーを読む限りでは、最初の検査で"thyroid nodules"があった22人中、"disappearance"が2人、"considered to be variants of normal"が3人であるからして、" nodules disappeared in 75 percent of subjects"とは言えないように思う。

*1:URL:http://www.uptodate.com/contents/thyroid-nodules-and-cancer-in-children?source=outline_link&view=text&anchor=H2#H2

*2:10.5%ってのもなんか計算合わない。298/3121=9.5%じゃないのか。本文に除外基準が書いてあるんだろうけど

*3:たぶんフォローアップできた集団のうち過去の検査で小結節があったのが22人なのだろうと思う。だとすると、脱落が3分の1として、バイアス等がなければ、最初の検査を受けた集団全体では小結節があったのが33人くらいと推測される