NATROMのブログ

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2005年のBMJに掲載された、北アメリカの自宅出産についての論文

Johnson KC, Daviss BA., Outcomes of planned home births with certified professional midwives: large prospective study in North America., BMJ. 2005 Jun 18;330(7505):1416.
http://www.bmj.com/content/330/7505/1416

ざっと読んでみた。全文公開されているすばらしい。

北アメリカ(対象の98%がUSAで残りがカナダ)における、助産師のサポートによる自宅出産予定の女性5418人が対象。メインアウトカムは、母体および新生児の死亡率、病院への搬送、医学介入、母乳栄養、母親の満足度。結果は、母体死亡はゼロ、新生児死亡率は1.7(出生1000対)、病院への搬送は655例(12.1%)。医学介入は、硬膜外麻酔(4.7%)、会陰切開(2.1%)、鉗子分娩(1.0%)、吸引分娩(0.6%)と帝王切開(3.7%)。分娩6週後の時点で母乳栄養は95.6%(完全母乳は89.7%)。母親の満足度は高かった。

著者の結論は「北アメリカにおける公認されたプロフェッショナルの助産師を利用している低リスクの計画された自宅出産は、低率の医学介入に関係しているが、アメリカ合衆国で低リスク病院出産の分娩時死亡および新生児死亡率と同程度であった」。著者は自宅出産に好意的。

私の感想。「前向きコホートは素晴らしい。かなり対照群のとりかたがちょっと微妙じゃね?」。まあ事実上RCTできないんだから、常に対照群のとりかたが問題になるんだけど、前向きコホートするなら同時に予定された病院出産のコホートも組むべきなんじゃないの?

この論文で低リスク病院出産の新生児死亡率を他の北アメリカの研究"other North American studies"から持ってきた。たとえば医師による病院出産について10個の研究を引いているが、分娩時および新生児死亡率(1000対)は、報告によって0.7から3までバラバラ。報告によって条件が異なるので比較できないのは明らか。自宅出産では5とか10とかではない、ということを著者は言いたいのだろうか。

ちなみに、日本での早期新生児死亡率(人口1000対)は2000年で1.2。高リスク妊婦からの出産も先天性疾患による死亡も含めて1.2だ(2005年BMJ論文では致命的な先天異常に関する死亡は除いてある)。よしんばUSAにおいて自宅出産と病院出産で新生児死亡率が変わりないとしても「そりゃ病院出産の医療レベルが低いせいなんじゃないの?」としか思えない。2000年のUSAの早期新生児死亡率の数字は発見できなかったが、2010年におけるUSAの早期新生児死亡率は3.7、日本は0.8だ*1

*1:URL:http://www.intermed.co.jp/pdf/2-7hikaku-syuusankishibou_h22.pdf