NATROMのブログ

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自宅出産では新生児に蘇生が必要になる確率が低いか?

「病院出産に比べて自宅出産では…新生児に蘇生が必要になる確率も低い」*1って本当かな?関連論文をびゃーっと眺めた限りでは必ずしもそうは言えないような。

たとえば、アメリカ合衆国でのスタディ、Wax JR, Pinette MG, Cartin A, Blackstone J. Maternal and newborn morbidity by birth facility among selected United States 2006 low-risk births. Am J Obstet Gynecol. 2010;202:152.e1–152.e5では、確かに、Newborn outcomeとして呼吸補助を行った新生児は病院出産で41.3(1000対)に対し、自宅出産では22.6(1000対)。約半分だな。しかし「自宅出産のほうが新生児に呼吸補助が必要になる確率が低い(自宅出産のほうが新生児の呼吸状態が良好だ)」と解釈はできない。

この研究では出生5分後のアプガルスコアが7点より低い(5-min Apgar score<7)割合も提示している。アプガルスコアは新生児仮死の度合いを示す指標で10点満点で評価し、点数が高いほど新生児の状態が良い。アプガルスコア7点以上が正常とされている。5-min Apgar score<7っては要するに状態の悪いことを示す。で、この出生5分後のアプガルスコアが7点より低い割合が、病院出産では12.4(1000対)に対して、自宅出産では23.5(1000対)。自宅出産のほうが有意に高い。

自宅出産において、呼吸補助を行った新生児が少ないのに、出生5分後のアプガルスコアが7点より低い新生児が多いってことは、普通に考えれば、呼吸補助が必要だったのにも関わらず呼吸補助が行われなかった結果、状態が悪くなった(あるいは悪いままだった)新生児が自宅出産で多いってことじゃね?

論文を全部は読んでいないので、今日はここまで。

自宅出産を推奨する人は、「確かに自宅出産は病院出産と比較して危険である。だがその危険を承知の上で自宅出産する選択肢があってもいい」と、なぜ主張しないのかな?「自宅出産は安全だ」というドグマに縛られるからおかしくなるように見える。

*1:URL:https://twitter.com/dmburg/status/267770537651097600