NATROMのブログ

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食事療法は前立腺癌の進行を抑えるか?

代替医療に親和的な医師が「癌の進行を抑える食事療法*1」という記事を書いていたので調べてみた。以下に引用する研究に基づいているとのこと。


■ライフスタイルと食事の変更で前立腺癌の進行を有意に抑制:医師のための専門情報サイト[MT Pro]


 Ornish教授らは,生検により前立腺癌が確認されたが標準治療を受けないことにした患者93例を登録。食事とライフスタイルの総合的な変更を行う群(介入群)と行わない群(非介入群)にランダム化割り付けした。患者が標準治療を選択しなかった理由は,今回の試験実施とは関係がなかった。
 1年後,介入群では前立腺特異抗原(PSA)値が低下したのに対し,非介入群では上昇した。ライフスタイル変更の程度とPSA値との間には,直接相関が認められた。また,患者の血清をin vitroで検討した結果,介入群の70%で血清が前立腺腫瘍細胞の増殖を阻害したのに対し,非介入群では9%であった。ライフスタイルの変更の程度と前立腺腫瘍細胞の増殖阻害との間にも直接相関が認められた。


原著はOrnish D, et al.: Intensive lifestyle changes may affect the progression of prostate cancer. J. Urology. 174: 1065-1070. (2005)。(■Intensive lifestyle changes may affect the progressio... [J Urol. 2005] - PubMed - NCBI)。私はサマリーおよびざっくりと図を眺めただけ。

n=93でそれなりの数はあるように思える。無作為化対照も置いている。さすがに盲検はできないが、大きな問題ではない。アウトカムは、PSAや前立腺腫瘍細胞増殖阻害は代用指標に過ぎないが、"underwent conventional treatment due to an increase in PSA and/or progression of disease on magnetic resonance imaging(MRIによる疾患の進行またはPSAの上昇による標準治療への移行)"が介入群ではゼロ(44人中)に対し、対照群は6人(49人中)であったのは意味がありそう(もちろん、介入群では「もうちっと生活習慣改善で頑張ってみよう」と思われるのに対し、対照群では「無治療では不安だから早めに標準医療を開始しよう」というバイアスが生じる可能性は否定できない)。

ただし、「癌の進行を抑える食事療法」とするのはミスリーディング。正しくは「集中的なライフスタイルの変更」。「介入群には果物,野菜,全粒穀物,豆類に加え,大豆とビタミン・ミネラル類のサプリメントを補給する徹底的な菜食主義を実践させ,また,中等度の有酸素運動,ヨガと瞑想,週1回のグループセッションに参加させた」そうであるからして、何が効いたのかよくわからない。

個人的には中等度の有酸素運動が強く効いたのではないかと思う。他の癌についても、適度な運動が再発や罹患を減らすという研究はあるからだ。食事が前立腺癌の進行を抑えるかどうかはこの研究だけからはわからない。

これもやはり個人的な意見であるが、たとえ食事が前立腺癌の進行を抑えるとしても、よほど強い効果がない限り、徹底的な菜食主義はまっぴらごめんである。

*1:URL:http://www.lomalinda-jp.com/essay/index.php?page=4&now_no=7。癌の進行を抑える食事療法、ロマリンダクリニック院長、富永国比古。パーマネントリンクでない可能性がある