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植物で未来をつくる(植物まるかじり叢書 5)


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■植物で未来をつくる(植物まるかじり叢書 5) 松永 和紀 (著), 日本植物生理学会 (監修)


植物科学の研究者(主に応用)7人に、著者がインタビューして書いた記事。本著の著者の松永和紀氏も、大学院までは植物生理学を目指していたそうだ。完全に門外漢に書かせると内容が不正確になる。一方、専門家自身が書いた本は難しすぎて固くなりがちだ(一般書もわかりやすく書ける専門家はレアだ)。本著は、どちらの心配もない。

植物生理学は、私は完全に専門外であり、初めて知るようなことばかり書かれていた。一例を挙げよう。鉄が足りないせいで作物が育たない土地が、世界の土地の3割を占めるそうだ。植物の鉄吸収のメカニズムを解明し、応用すれば土地の利用効率は上がる。鉄吸収のため、オオムギが根から分泌し鉄と結合する蛋白質「ムギネ酸」の生合成過程を解明し、遺伝子組み換えで鉄欠乏耐性イネをつくった。栽培実験の写真は印象的だ。実用化はまだ先のようだが、こうした技術が飢餓を無くし、死者を減らすことに役立つのは明らかだ。