NATROMのブログ

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偽薬のミステリー


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■偽薬のミステリー [単行本] パトリック ルモワンヌ (著), 小野 克彦 (翻訳), 山田 浩之 (翻訳)


原著は1996年。著者はフランスの精神科医。参考文献一覧はあるが、フランス語が混じっているのと、本文からの参照ができないので、資料としては使いづらい。しかし、読んで面白く書けている。

訳は読みやすいが医学用語は不安。たとえば、懲罰的な偽薬効果を説明した「事実上無痛の生理的血清よりも、一般的には蒸留水の使用が好まれているのである!(P64)」。生理的血清って何だ?生理食塩水の誤訳であろう。

愉快なエピソード。著者がアメリカの日刊紙の諷刺漫画で見たセリフ。



「先生、私に偽薬を処方して下さるとおっしゃるなら、私は贋金でお支払いしましょう」


日本人は特に薬好きだと思っていたが、フランスでも状況が似ているようだ。医学的に処方が必要でなくても、何らかの処方がなされがちらしい。



患者の立場から見ても医師の立場から見ても、診察をうけに医師のもとを訪れたとき、習慣となっている書類、とくに処方箋をもらわずに診療を終えるのは、まったく非常識のように思われる。(P167)

…患者の期待に応えるためには、彼らに「何かを処方してあげる」ことが必要であり、事実、何も与えなければ患者が不満に思うものだということを医師が理解すれば、すべてがうまくいくことは明らかである。したがって、喜ばせたいという欲求があれば、厄介な事態が生じる可能性を極力小さくする振る舞いを医師はすることになる。すなわち、診察の終了時に何も処方しないのはいけないと考えて、ときには医師自身も幻想を抱くような薬、また薬であることは確かでもその病気には効き目のない不適当な「薬の幻影」とでもいうべきものを処方することで患者に幻想を与えるのである。(P168)


フランスでは、医師によってホメオパシーのレメディが処方されることを思い出させる。