■偽薬効果 H. ビーチャー (著), 笠原 敏雄 (編集), Henry K. Beecher (原著) 。
プラセボ効果に関する論文集の和訳。23編。論文は1950年代のものから一番新しいもので2000年ぐらい。訳はあまりこなれていないし、論文も玉石混交のようだ。編者に聞き覚えがあったが、超心理学の人だった。付章として超心理学の分野としか思えない論文も紹介されている。おそらく、編者はこういう論文こそ紹介したかったのだろうと推測する。しかし、プラセボ効果は、ESPとは異なる。同じ本で扱うと誤解を招くので望ましくないと私は考える。
いろいろ欠点はある本だが、逸話は面白い。二つほど紹介する。
病棟を回診中のエンゲル医師が、癌の女性患者を診察したときの逸話(LeShan, 1996)が伝えられている。その女性は、エンゲルに、「先生、私の癌は雄ですか雌ですか」と尋ねた。それに対してエンゲルは、「どうしてそんなことを訊くのですか」と反問した。「雄の癌の方が、雌の癌より痛いという話ですから」という女性の説明に対して、エンゲルは、「あなたの癌は雌です」と答えたというのである。(P218)
医師が患者に「嘘をついた」ことになるかもしれない。あくまでも誠実になろうとするならば、癌には雄とか雌とかいう分類はない、と説明すべきである。「このような意味での誠実な発言は、患者の幸福に対する医師としての責任を、半ば放棄する結果を招くのである(P230)」。実際の臨床の現場では、ケースバイケースであろう。患者の理解力や疾患の背景まで考慮すると、私も、エンゲル医師のような発言をするかもしれない。
二つ目の例は、アメリカのある大学で、「オカルト現象の超心理学」という講座を担当していた教授の話。
その中で、ひとりの学生が、遠隔魔術で人を呪い殺す能力を持っていると言い出し、学期末に提出したレポートで、その能力を実証したいと申し出た。教授はそれを認めた―が、「…われわれはこの学生に、ひとりたりとも殺させることはできなかった―そのようなことは、正当なことでもなければ、誉められたことでもない…そこで、学生が私に死の呪いをかけるということで意見の一致をみた」という。教授は、封をした封筒を大学の学籍課に託し、表に、「来年末までに私が死んだら、ただちに開封すること」と記した。封筒の中には、もし自分が死んだら、その学生には”秀”をつけるよう指示する学籍課宛ての手紙が入っていた。学生は、もし教授が死ななかったら成績が”不可”となることに同意した。学生は、その試験に落第した。教授は次のように述べる。「人を呪い殺すことができると主張する者の標的になりたがっている人間は、あちこちにたくさんいると思う…われわれは[この仮説を]検証することができる」(Halifa-Grof, 1974)。(P296)
逸話は面白いが、伝聞形式で書かれており、やや信憑性に欠ける。