■インフォームド・コンセント―その誤解・曲解・正解 谷田憲俊著。
読む価値のある本だった。医薬ビジランスセンター発行なので、警戒しつつ読んだが、信頼できる。ときに製薬会社批判や日本医師会批判が行き過ぎであると感じる部分があるくらいだが、相対的には些細な問題である。参考文献の提示の際に、数行で日本語の解説がついているのが親切。たとえば、
Pearn J. Bioethical issues in caring for conjoined twins and their parents.Lancet. 2001;1968-1971.
大きな社会的注目を浴びた。そのままで近々結合双生児の一方の死亡がみえており、他方も死亡することが確実であった。分離手術自体の危険性も高く、他の医療とは別々の因子も数多い。つまるところ、道徳を規範として両者とも死なせるか、倫理を規範として1人を助けるかである。
という具合。
いわゆる儀式的な心配蘇生のことを、"Slow code"や"Light Blue"というのも初めて知った(P171)。著者の谷田は、無益な心肺蘇生を医療者が要求された場合は、"Slow code"で扱うのが適切としている。事実と、著者の意見との区別が明確であるのも、高く評価できる。「インゲルフィンガー物語」*1。著名な医師が食道癌にかかったとき、
彼はあらゆる情報を得ましたが、あふれる情報の中で彼は混乱して自己決定できなくなったのです。結局、「こうしなさい」という医師に出会って、彼は方針を決めることができました。その経験から、彼は医療には権威主義、パターナリズム、支配関係が必要だとしました。(P118)
こうした事例を紹介しながらも、著者は、「当時のアメリカはパターナリズム医療が主流であったことに留意が必要」とし、「対話型」「患者支援型」の患者・医師関係を勧めている。
2006年発行であるので、大野病院事件、大淀病院事件については触れられていない。
*1:Ingelfinger FJ. Arrogance. N Engl J Med 1980; 303 :1507-1511