■昆虫つれづれ草 手塚治虫著。
手塚治虫の中学時代の同級生が、書庫を整理していたら、手塚による手作りの本が発見された。当時、手塚は昆虫採集にはまっていて、「動物同好会」をつくり、その会誌を発行していた。本書は、その手書きの本を元に、旧かな遣いを改め編集したものである。
挿絵もあるが、基本的には文章である。奥本大三郎による解説にもあったが、中学生の書く文章ではない。手塚の天才性なのか、当時の中学生がそうだったのかはわからない。たとえば、このような感じ。
蝉の声は全く夏の心である。蝉鳴きて夏来ると言われるごとく、夏は蝉なくして我々の世界に至らぬであろう。大都会の人々は、春も夏も秋も冬もないと言っている。が一歩郊外へ出ると蝉に明け、蝉に暮れる真の夏の気分が味わえるのである。蝉の声こそ気候の変遷をよく表徴しているものだ。(P50)
「磯崎君の幾何ノートより」という章があり、なんのことかと思ったが、戦時中の紙不足より、同級生の幾何ノートを譲り受け、後半部分に手塚が書いたものであった。