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「がん死亡率減少がない=過剰診断」という誤解

「検診によるがん死亡率減少がない=過剰診断」という誤解はよくみられす。福島県の甲状腺がん検診に反対している人たちの間でもあります。検診によるがん死亡率減少と過剰診断の関係について説明を試みます。

無症状でがん検診を受けてがんと診断された人は、以下の4つのどれかです。


1. 検診を受けても受けなくてもがんで死ぬ運命だった。検診で発見された時点で手遅れ。
2. 検診を受けたおかげでがんで死ぬことを避けられた。
3. 検診を受けていなければいずれ症状が出てがんと診断される運命であったが、それからがんの治療をしても、がんで死ぬことはなかった。
4. 治療を受けなくても一生涯症状が出ず、検診を受けていなければがんと診断されることもなかった。


4.が、みなさんおなじみ「過剰診断」です。一方、原則として、がん検診の利益としてカウントされるのは2.です*1。検診を受けると、受けない場合と比べて、がん死亡率が減少するのが有効ながん検診ですが、それは2.の「検診を受けたおかげでがんで死ぬことを避けられた」人が一定割合でいるからです。

4.の過剰診断はもちろん、1.と3.もがん死亡率は減りません。なので「過剰診断はほとんどなく、がん死亡率を減らさないがん検診」はあり得ます。腹部超音波検査による膵がん検診は、たぶんそんな感じになるでしょう。検診で膵がん死亡率はおそらく減少しませんが、それは過剰診断のせいではなく、腹部超音波検査で見つかるような膵がんはたいてい1.(手遅れ)だからです。

「過剰診断はあり、がん死亡率を減らすがん検診」は普通にあります。というか有効ながん検診はみなそうです。乳がん検診は乳がん死亡率を20%減少させますが、検診で乳がんと診断された15~30%が過剰診断です。

「過剰診断はなく、がん死亡率を減らすがん検診」は理論上はありえますが、現実には存在しません。過剰診断があることを理由にがん検診を中止していたら、施行可能ながん検診は残りません。実際のところは、過剰診断をはじめとした不利益と、がん死亡率の減少といった利益のバランスで推奨度合いが決まります。

「過剰診断はあり、がん死亡率を減らさないがん検診」は、たとえば、甲状腺がん検診や神経芽腫マススクリーニングがそうです。「神経芽細胞腫マススクリーニング検査のあり方に関する検討会」では、「(1)死亡率減少効果があるか、(2)マススクリーニングによる不利益がないか」が検討され、「死亡率減少効果はどうやらなさそう」「過剰診断など不利益はめっちゃある」と判断されて、神経芽細胞腫マススクリーニング検査はいったん休止となりました。「中止」ではなく「休止」とするのが通です。実質的に中止なので中止と書いても間違いではありません。

*1:子宮頸がん検診のように、がん死亡だけではなく浸潤がん発生を減らすことが利益とされることもあります