HPVワクチンの是非および医療ジャーナリストの信頼性について澤田石先生という方と議論しています。驚いたことに、ワクチンと自閉症の関連が疑われたウェイクフィールド事件について、澤田石先生は知らなかったのだそうです。知らないだけではなく、「関心なし」とのことです。
yes.関心なし。ちょいとみて、「ほ」。
— 澤田石 順(生活の党) 吉良議員応援 (@sawataishi) 2016, 2月 4
中心課題のみ。今、ここにある危機だけに集中しよう https://t.co/09u0fJ4jLR
ウェイクフィールド事件とは、イギリスの医師(当時)のウェイクフィールド氏がMMRワクチン(はしか・おたふくかぜ・風疹の三種混合ワクチン)と自閉症に因果関係があるのではないかという論文を発表したことに端を発する有名な事件です。最終的に捏造が発覚し論文は取り下げられましたが、メディアの報道などを通じてワクチン接種率が下がり、麻疹(はしか)患者の増加などの感染症の流行を引き起こしました。「疑わしきは控える」との慎重の原則が場合によっては多くの人々の健康を損ないうることを示しました。詳しく知りたい方は、■【文献】ワクチンやそれに含まれるチメロサール,水銀は自閉症と関連しない.メタ解析 : EARLの医学ノートや■予防接種で自閉症になるという恐怖の拡大に加担したマスコミ側の問題について - warbler’s diaryを参照してください。
HPVワクチンの問題点について考えようとするときに、過去のワクチンについての議論に関心がないというのは、私には信じがたいことです。新しい公害事件について考えるときに、水俣病を知らない、関心がないというようなものです。もちろん、HPVワクチンとMMRワクチンは異なります。もしかしたら、ウェイクフィールド事件ではなく、薬害エイズ問題*1に教訓を得なければならない事態かもしれせん。どちらにせよ、過去の教訓に学ぶことは、現状の把握と同じくらい大事なことではないですか。
人体も病態も複雑です。臨床医は複雑な問題に立ち向かわなくてはなりません。利用できる情報は最大限に利用しなければなりません。たとえば、原因不明の発熱、血小板減少、全身の皮疹がある患者さんの診療に苦慮していると仮定しましょう。澤田石先生のおっしゃりようは、「過去に発表された、同様の症状の患者さんの症例報告を読みましたか?」という指摘に対して、「読んでいない。関心もない。患者さんの状態だけに集中しよう」と言っているようなものです。
澤田石先生は、「中心課題のみ。今、ここにある危機だけに集中しよう」という言葉を、無知と怠惰の言い訳にしていませんか。
*1:薬害エイズ事件も一部に信じられているような単純な問題ではないのだが、だからこそ教訓になる