「がんばれ!猫山先生」は、日本医事新報という雑誌に掲載されている4コママンガである。日本医事新報は医師向けの雑誌であるので、「がんばれ!猫山先生」も、完全に医師向けの内容である。内輪受け、自虐ネタが多い。今回紹介する「現代ムンテラ事情」も、自虐ネタである。「ムンテラ」とは、患者さんやご家族に対する説明のことを指す業界用語である。もともとは、「口(くち)」という意味のムント(Mund)と、「治療」という意味のテラピー(therapie)を合わせた言葉であるが、以下に引用するように、ぜんぜん治療になっていないことが多い。
現代ムンテラ事情(がんばれ!猫山先生〈2〉より引用) |
むろんこれはマンガなので誇張されている。実際にはこんな医師はいないだろう。だけど、医師の多くは、このマンガを読んで、「アハハ、だよねー」と思うのだ。200分の1の死亡率と聞いて安心できない患者さんがいるのは当然だ。でも、死亡する可能性について医師は説明しなければならない。患者さんを安心させることと、情報を正確に伝えることにはジレンマがある。そのジレンマを、この4コマ漫画は自虐的な笑いで表現した。こんな「冷たい医療」がいいなんて医師は思っていない。でも、そうしないと「説明義務違反」で訴えられるのだ。
いっぽう、代替医療はどうか。確かに、「冷たい」標準医療と比較して、代替医療の多くは「ぬくもりある医療」で、患者さんに「癒し」を与えるであろう。ホメオパシーはその最右翼に位置する。悪性リンパ腫の患者さんに対し、容体悪化を「好転反応」としてホメオパシーによる治療を続け、最終的に死亡させた、「あかつき」問題*1において、ホメオパスと患者さんのメールのやり取りを読んで、標準医療は代替医療に絶対に勝てないと私は思った。はっきり言って勝負になんない。こっちは両手両足を縛られているのに、向こうは何でもアリの状態だ。
ホメオパスは「必要以上に患者を安心させ」「根拠のない保証をし」ている。そりゃあ、「癒し」「ぬくもり」「暖かさ」では、圧倒的にホメオパシーに分がある。「あかつき」問題の患者さんは、激痛により意識を消失し、病院に救急搬送された上で亡くなった。しかし、たいていの病気は自然治癒するのだ。ホメオパシーは、稀な重症例を見落とすまで「ぬくもりある医療」と思われ続けるのだ。いや、重症例を見落としたところで、「それは本来のホメオパシーではない」「たまたまホメオパスが能力不足だっただけ。標準医療だって医療ミスがある」と言い逃れるだけだろう。安心したい患者さんがいる限り、代替医療は勝ち続ける。
*1:■ホメオパシー被害 「あかつき」問題を憂慮する会。当初、ホメオパスと患者さんのメールのやり取りが公開されていたが、現時点では公開されていない