NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

国際疾病分類が細かすぎる件

各国で死亡や疾病の統計を比較しようとしたとき、それぞれの国が勝手に死亡を分類していたら困るよね。そこで、みんなで話し合って、分類の方式を統一した。医学が進めば分類の仕方も変えざるを得ないので、何度も改訂され、現在のところは、ICD-10(国際疾病分類第10版)が一番新しい。ネットで見ることができる。便利な世の中だ。


■ICD10 国際疾病分類第10版


大雑把には22章に分かれているが、細部は非常に細かい。たとえば、「傷病及び死亡の外因 (V00-Y98)」のうちの交通事故(V00-V99)は、

  • V01-V09 交通事故により受傷した歩行者
  • V20-V29 交通事故により受傷したオートバイ乗員
  • V30-V39 交通事故により受傷したオート三輪車乗員
  • V40-V49 交通事故により受傷した乗用車乗員
  • V80-V89 その他の陸上交通事故
  • V98-V99 その他及び詳細不明の交通事故

などに分類される。さらに「V80-V89 その他の陸上交通事故」は

    • V80 交通事故により受傷した動物牽引車乗員又は動物に乗った者
    • V81 交通事故により受傷した鉄道列車乗員又は鉄道車両乗員
    • V82 交通事故により受傷した市街電車乗員
    • V83 主として工業用地内で使用される特殊車両の乗員で,交通事故により受傷した者

に分類される。さらに「V80 交通事故により受傷した動物牽引車乗員又は動物に乗った者」は

      • V80.0 衝突以外の事故における動物又は動物牽引車からの落下又は投げ出されにより受傷した動物牽引車乗員又は動物に乗った者
      • V80.1 歩行者又は動物との衝突により受傷した動物牽引車乗員又は動物に乗った者
      • V80.3 二輪又は三輪のモーター車両との衝突により受傷した動物牽引車乗員又は動物に乗った者
      • V80.4 乗用車,軽トラック,バン,大型輸送車両又はバスとの衝突により受傷した動物牽引車乗員又は動物に乗った者
      • V80.5 その他の明示されたモーター車両との衝突により受傷した動物牽引車乗員又は動物に乗った者
      • V80.6 鉄道列車又は鉄道車両との衝突により受傷した動物牽引車乗員又は動物に乗った者
      • V80.7 その他の非モーター車両との衝突により受傷した動物牽引車乗員又は動物に乗った者
      • V80.8 固定又は静止した物体との衝突により受傷した動物牽引車乗員又は動物に乗った者
      • V80.9 その他及び詳細不明の交通事故により受傷した動物牽引車乗員又は動物に乗った者


に分類されるという具合。他には、たとえば、

  • V95-V97 航空及び宇宙交通事故
    • V95 乗員が受傷した動力航空機事故
      • V95.4 乗員が受傷した宇宙船事故


確かに、宇宙船事故で死亡した人もいるから、必要な分類である。

  • W50-W64 生物による機械的な力への曝露
    • W50 他人による叩かれ,打撲,蹴られ,ねじられ,咬まれ又はひっかかれ
    • W51 他人との衝突
    • W52 群衆又は人の殺到による衝突,押され又は踏まれ
    • W53 ネズミによる咬傷
    • W54 犬による咬傷又は打撲
    • W55 その他の哺乳類による咬傷又は打撲
    • W56 海生動物との接触
    • W57 無毒昆虫及びその他の無毒節足動物による咬傷又は刺傷
    • W58 ワニによる咬傷又は打撲
    • W59 その他の爬虫類による咬傷又は挫滅
    • W60 植物のとげ及び鋭い葉との接触
    • W64 その他及び詳細不明の生物による機械的な力への曝露


このあたりは、わりと嫌な死因である。他人による「ねじられ,咬まれ又はひっかかれ」て。「無毒昆虫及びその他の無毒節足動物」と、わざわざ無毒としているのは、別項目で「X20-X29 有毒動植物との接触」があるから。

  • X50-X57 無理ながんばり,旅行及び欠乏状態
    • X50 無理ながんばり及び激しい運動又は反復性の運動


「無理ながんばり」って、訳に少し問題があるような気がする。原文では"overexertion"とあった。


死因の分類で楽しむというと不謹慎ではあるが、つらつらと読むに、世の中にはさまざまな死因があることがよくわかって興味深い。