NATROMのブログ

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癌は真菌であり、重炭酸ナトリウムで治療可能だったんだよ!

イタリアの元医師シモンチーニ氏が、癌の病因と治療に関して、きわめてユニークな説を主張している。■デーヴィッド・アイク公式日本語情報ブログ*1より引用。



聡明で勇敢なイタリアの医師トゥリオ・シモンチーニ(Tullio Simoncini)は、そのひとつの例である。彼は、ガンの正体とその対処法を突き止めた後に直面することになった巨大な圧力に屈することを拒み、それに立ち向かい続けた。
シモンチーニの「犯罪」とは、ガンがカンジダという健康な人の体内でさえ少量存在するイースト(酵母)菌に似た有機体によって生じる真菌であることを発見したことである。普段は免疫系がそれを抑制しているが、カンジダが強力な菌に変異する時、いくぶん深刻な健康問題が発生することになる。ガンもそれである。


「癌は真菌である」という主張はユニークであるが、その背景の陰謀論はいつものやつである。高価だが効かない抗癌剤を売っている製薬会社によって、癌の画期的な治療法が抹殺された、というものである。今回のは、さらに、「本来それはお金のためですらない。例の血族は人口削減の方法として、人々が必要以上に早く苦しんで死んで欲しいのだ」ともある。「例の血族」とは「イルミナティ血族」のことである。いつも思うのだが、この手の陰謀論を信じている人は、平均寿命がどんどん伸びていることをどのように考えているのだろう?さて、「癌は真菌である」とする主張の根拠が、なかなかすごい。



シモンチーニは、ガンが体内のどこにあろうと、あるいはどんな形をとろうと、全てのガンが同じように振る舞うことに気がついた。そこには共通項がなければならなかった。彼はまた、ガンの「しこり」が常に白いことに着目した。

他に白い物とは何だろう? カンジダである。


癌は白い。カンジダも白い。よって癌はカンジダである、ということらしい。他に根拠らしいことは書いていない。癌の組織を顕微鏡で見たらカンジダ菌が観察された、ぐらいのホラを吹いて欲しいところだが、それもない。マジレスするならば、癌の外見はいつも白いというわけではないので、前提からして誤りである。また、癌は病理検査、つまり、組織を顕微鏡で見て診断されるが、癌がカンジダなら顕微鏡で見える。シモンチーニ以外の医師は、カンジダを見落としたか、あるいは巨大な陰謀に組みしているのだろう。「癌は悪い赤血球が変化して生じる」ことを観察した千島喜久男先生すら、癌がカンジダであるなんて主張していない。ちなみに、病理スライドは、医師だけでなく、検査技師や医学生も見る。これらすべての人の口を塞ぐのはたいへんそうだ。

わかりやすくたとえるなら、シモンチーニ氏は、「クジラは魚である」ことを発見したわけだ。その根拠は、「クジラは海に住んでいる。他に海に住んでいるものはなんだろう?魚である」ということから。だったら、クジラは肺呼吸ではなく鰓呼吸のはずだが、すべての生物学者および漁師および魚屋がその事実を見落としているか隠蔽しているというわけである。念のために、"Simoncini candida"でPubmed検索をしてみたが、関係のありそうな論文はなかった。癌が真菌症だったとして、だったら抗真菌剤が効くかと言えば、そうでもないらしい。重炭酸ナトリウムが効くとのこと。



シモンチーニは、ガンが真菌の感染もしくは蔓延であると気付くと、その真菌を殺し、悪性腫瘍を除去できる何かを探し始めた。彼は、抗真菌剤は作用しないと気付いた。なぜなら、真菌は自己防衛のためにすばやく変異し、真菌を殺すために処方された薬物を取って食べ始めさえするからだ。

その代わりにシモンチーニは、もっとずっと簡素なものを見つけた。重炭酸ナトリウムである。そう、馴染み深い重曹の主要成分である。(しかし重曹と同じではないと強調しておく。重曹は他の成分も含んでいる。)


これはあれか、掃除をするときにカビキラーを使わずに、重曹を使うロハスでエコな意識の高い方々をターゲットにしているのだろうか。「重炭酸ナトリウムをガン、すなわち真菌に直接かける」ことで、癌が消えるらしい。よしんば癌が真菌だったとして、重炭酸ナトリウムをかけたぐらいで消えるわけはなかろう。以上、よほどの情報弱者でもなければ、本気にはしないレベルの内容である。デーヴィッド・アイク公式日本語情報ブログは、ちゃんと、月刊「ムー」レベルの話であると明示してある。





爬虫類人が目論む新たなる世界支配の恐怖



というわけで、完全にネタ扱いしてもいいのかと思っていたけど、「シモンチーニ・ガン・センターというのが、日本に出来る」らしく、ホームページまでできている。ネタにしては作り込んである。


■Chironcology Inc *2




リアルな値段設定


もしかして、マジ?いくらなんでも、こんな低レベルの詐欺に騙される人はそうはいないだろうと思いたいところであるが、それなりにいるのだろうなあ。成人がこれに引っかかっても同情できないけど、せめて子供が巻き込まれるようなことがありませんように。



追記(2010年7月4日)
幻影随想の■トゥーリオ・シモンチーニのがん治療についてのまとめも参考になる。シモンチーニ氏の「前科」について述べられている。「癌 and 真菌」で検索すると、私の記事が上位に表示されるが、タイトルに「シモンチーニ」が含まれていないため、「シモンチーニ」では上位に入らなかった。幻影随想のこの記事が、「シモンチーニ」で検索した人に正しい情報を提供できるようになるだろう。


*1:URL:http://www.davidicke.jp/blog/20091122/

*2:URL:http://www.chironcology.com/