NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

体験談は証拠にならない〜浄霊による体験〜

子に必要な医療を受けさせない「医療ネグレクト」のニュース。亡くなった赤ちゃんに哀悼の意を表します。


■時事ドットコム:7カ月長男死なせる=病院行かずに「手かざし」−両親を殺人容疑で逮捕・福岡県警


 生後7カ月の長男が細菌に感染して衰弱しているのに、宗教上の理由から病院に連れて行かずに死なせたとして、福岡県警捜査1課などは13日、殺人容疑で、福岡市東区の宗教法人「新健康協会総本部」職員高月秀雄容疑者(32)と妻で同職員の邦子容疑者(30)=いずれも同区唐原=を逮捕した。同課は医療放棄による殺人事件として東署に捜査本部を設置し、全容解明を進める。
 捜査本部によると、2人は教義に従って手をかざすことで病気やけがを治すとされる「浄霊」をしただけで、定期健診なども受けさせていなかった。いずれも容疑を認め、秀雄容疑者は「病院に行こうと思った時期もあったが、結果的に子供を見殺しにした」と供述、邦子容疑者は「自分もそう育ててもらったので、きっと良くなると信じていた」などと述べているという。


子がどのような医療を受けるかは、親権者が判断する。しかし、あまりにも常識から外れた判断に対しては、公権力が介入して子の生命を守ることが必要になる場合もあるだろう。この問題については、■B型肝炎ワクチンとホメオパシー■輸血拒否した両親・親権停止が男児の命を救った■ホメオパシーと医療ネグレクトなどで論じた。ただ、介入がいつもうまくいくとは限らないし、基本は個人の決定は尊重されるべきなので、介入なしでもこうした痛ましい事例が起こらないのが望ましい。

宗教だけでなく、現代医学を否定するタイプの代替療法は、医療ネグレクトの原因になりうる。代替療法を支持するきっかけの多くが、体験談にあるようだ。○○療法を行って良くなったという体験談が、代替療法を支持する大きな根拠となっている。代替療法の支持者には、代替療法の是非はともかくとして、「体験談は証拠にならない」ことすら理解してもらえないことが多い。おそらくは代替療法を支持する人たちであっても、「浄霊」に効果があると信じる人はそうは多くはないだろう。しかし、「浄霊」にだって、良くなったという体験談がある。「新健康協会」のサイトにあった、「健康新聞 Vol 645 2010年1月号」には、「浄霊とは、目に見えない光のエネルギーで心身を健康に導く方法です。浄霊による体験を御紹介します」とある。支部名、個人名、写真は引用者が隠した。





浄霊による体験


以降、その日の夜に発熱するも翌日には平熱となった。他にも、膀胱炎や歯槽膿漏、原因不明の下腹部痛が治ったという体験談が紹介されている。さて、体験談から代替療法の効果を信じる人は、同様に「浄霊」の効果も信じるのであろうか。多くの場合、「体験談は証拠にならない」ことを認めていただけるものと願う。体験談の数も証拠とならない。「健康新聞」のバックナンバーをさかのぼれば、「浄霊」の体験談はいくらでもある。「浄霊」の支持者は、どのような証拠にも説得されることはなく、ただ「中にはとても改善した人もいる」と言い続けるだろうが。